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2000年1月10日(月):成人の日

◆今日はビデオ整理の日である。昨日は20本などと書いたが、なんのなんの
結局6時間テープで30本ジャストあった。これを再生してどこに何が入って
いるのかをラベルに記載して貼り付ける作業で半日がすっ飛ぶ。うーん、今ごろ
よしださんはまた美味しい本を狩っているのだろうなあ、と身悶えしながら、
「しかし、ここでやっておかなければ、永遠に収拾がつかない」とばかり心を鬼に
して作業に集中する。で、一体何を録画していたかというと、こんなところ。
「氷の世界」「危険な関係」「科捜研の女」「TEAM」「隣人は秘そかに笑う」
「新スタートレック」「絹の疑惑」「心理探偵フィッツ(再)」「新アウター・
リミッツ」「ターザンの大冒険」「ターンA・ガンダム」これに映画(「12人の
優しい日本人」「ローラ殺人事件」「女優霊」「死国」等)や特番(「蒼ざめた馬」
「ケイゾク特別編」「世にも奇妙な物語」等)が山とつく。こまめに「刑事鬼貫
八朗10:風の証言」「女弁護士高林鮎子25:瀬戸内を渡る死者」「降霊」とか
いう原作ものから、「第一容疑者/死者の香水」「第一容疑者/裁かれるべき者」
などという録画した事さえ忘れていた渋いところも押さえていて我ながら呆れ返る。
ちゃあんと「きょうのわんこ」の「こた」編も残してある。えらいぞ!!
でも、ターザンの第2話をとり損ねていた事が判明して少しショックである。
更に問題は、この中で見たものはたったの5%以下、ということである。ああ、
一体どうすんだよう?!1月新番組は、思い切って絞り込んで「モナリザの微笑」
「京都迷宮案内2」だけにするぞっと。
◆そもそも、このHPでは、テレビのミステリももっとしっかり紹介するつもりが
この体たらくである。ネットを始めて益々「受け身」のテレビ視聴がかったるく
なってきており前途多難ですのう。
◆よって、本日の古本購入数は0。なお、黒白さんの3千アクセスプレゼント
ではBコースを当ててもらえた模様。うふふ「妖しい雑誌」である。ありがとう
ございます。

◆「活字狂想曲」倉阪鬼一郎(時事通信社)読了
今更なんの説明も必要ないであろうが、かの怪奇小説家クラニー先生が校正係と
して普通に会社勤めしていた頃のエッセイ集である。幻想卵という同人誌に連載
された由。滅法面白いとは聞いていたが、なるほどこれは笑殺爆弾である。また
しても文章芸で笑わせられてしまった。これほどのアウトサイダー観を持ちながら
よく会社勤めが務まったものだと感心する。校正という職種の悲惨については
笠井潔の「梟の巨なる黄昏」だったかで読んだ事があるが、実態は小説家の想像力
を越えるものであったようだ。私自身、一時期、カタログ関係の部署にいたので
よけいに心が痛む。ああ、あの時の無理な注文の影で沢山の人が泣いていたのだ、
と考えると思わず懺悔室に駆け込みたくなる。しかし頁を繰る手は止まらない。
私もまた、会社では変人扱いを受けているが、作者の異人ぶりたるや「凄絶」の
一言である。会社の「非公式」行事を拒み、昇格を拒否し、それでいて仕事は
きちんとこなす作者の姿には、大いに喝采を送りながら、「ここまでは出来ない
なあ」と感心する事しきりである。日本的経営の偽善と宗教団体性をスルドく
暴き立て、会社人間の矮小さを切って捨てる一方で、社内外の「職人」さんに
向けられた眼差しは限りなく温かい。東大出の「横光」君というキャラもいいぞ。
勿論、バカで会社をやめる事になるクライマックスは最高。日本式やくざ映画の
定法に則ったカタルシスが堪能できる。
ツボに嵌まってしまった部分を挙げればキリがないのだが、例えば会社では上に
行くほどカタカナ言葉を使いたがる、というような話は思わず膝をうった。
あるのですよ、これが。ついこのあいだまで「これからはソフトの時代だ!!」
と言っていたのが、ある日突然「これからはコンテンツの時代だ!!」になる。
一体、何が違うのか言ってみんかい!!
因みに最近の流行は「これからはビジネス・モデルの時代だ!!」である。
とまれ、この書は会社勤めに疲れている総てのサラリーマンに読んで頂きたい
名作である。でも一番読んで頂きたいのは、会社勤めに疲れていない元気のいい
偉い人なのかもしれない。読まねえだろうなあ。


2000年1月9日(日)

◆3連休中日。SRの例会にもMYSCONの下見にも行かず怠惰に過ごす。
◆先日頂戴した本の御礼に、「死のジョーカー」「針の孔」を菅さん宛発送。
今年はアボットの私家版訳にも挑戦されるとの事。やんや、やんや。なんと
アボットの息子さんのOKをとっているらしい。凄いですねえ。
◆MLに初投稿した後に、近所のブックオフ詣で。ついでにダイジマンさんの
「通」セレクションを見に某書店へ行く。あったあった、なるほど「通」と
墨で書かれた手書き帯が強烈である。折角なので買い物をと思ったが、この辺
でごまかそうかなと思ったコロンボの文庫新作が置いてない。うがあ、うがあ。
創元の猫丸先輩の新作は帯とカバーに疵があってパス。うむむ。で、結局
「活字狂想曲」倉阪鬼一郎(時事通信社:帯)1600円を購入。ついでに
カウンター平積み状態の新潮文庫「自分の本」(要は文庫型の白本ね)を買う。
そのうち新潮文庫の効き目になるに違いない。なるわけねえか。
ブックオフで拾ったのはこんなところ。
「誇りの報酬」(日本テレビ)100円
「誇りの報酬2」(日本テレビ)100円
「夏の終わりの三重殺」玉川散歩(広済堂)100円
「おもしろ推理パズル」田中潤司(日本文芸社)100円
「サイボーグ009超銀河伝説(上下)」金春智子(少年画報社)各100円
「妖かしの宴」水木しげる監修(PHP文庫)400円
ああ、どこまで続く金春地獄。なんでこんな仕事までやってんだ、この人?
漫画も少々購入。小説で収穫がないとつい買い物してしまう。
「炎の筆魂」島本和彦(朝日ソノラマ)350円
「炎の筆魂2」島本和彦(朝日ソノラマ)350円
「アップルフェルラント物語」ふくやまけいこ・田中芳樹(徳間書店)100円
「放課後には魔道師(冒険編)」くら・りっさ(ラポート)100円
「できるかな」西原理恵子(扶桑社)350円
島本漫画の宮村優子がサイコーだあ!!なんと作者に執筆お願いビデオを送った
つうのが爆笑である。ふくやまけいこさまの漫画はイラストのときの丸っこい
線じゃなくて、しゃきしゃきしたGペンの切れの良さが伝わってきてグッド!
なんだ、上手いじゃないか、この人。
◆夜になって3ヶ月積録未整理状態のビデオテープの整理を始める。6時間
テープで20本ある。3本で力尽きる。あとは明日だ、明日!!

◆「機械じかけの神々(上下)」五代ゆう(富士見ファンタジア文庫)読了
「はじまりの骨の物語」(大傑作!)でファンタジー大賞デビューを果たした
作者の第2作。あまりにも可愛い絵柄に拒否反応を示して今まで積読にしてい
たのだが、宇都宮君のコミケレポートで「本人に会う」とかいう羨ましい話が
載っていたのに刺激をうけて手にとってみた。
中世ヨーロッパを思わせる舞台設定。皇帝と法王の覇権争いに巻き込まれた
錬金術師の幼い徒弟の恋と冒険と自分捜しを描いた旅モノ・ファンタジー。
錬金術が科学の域に達した世界。その成果である「機人」(ロボット)を武器に
せんがため、法王は天才的錬金術師を幽閉するが彼はそれを拒み自らその命を絶つ。
教皇は尚も、彼の幼い弟子であり精霊族の先祖帰りである主人公を攫おうとする。
主人公は、その主人に似せて作られた精巧にして忠実な「機人」、流れ者の剣士、
声を失った少女らと旅を続ける。内なる声に導かれ、目指すは伝説の都市ザナドゥ。
果して彼等の旅の果てに待つものは?
「はじまりの骨の物語」では若き作者の定石破りに感動したのだが、この作品
はどこを切っても「お約束」。設定の大仕掛けに小説力がついていかなかった
というのが率直な感想。一番の謎の解明を平板な説明に埋没させてしまったのは、
なんとも頂けない。しかも明らかに破綻している。そこで主人公ともども一旦
アンチクライマックスに落ち込んでしまうために、エネルギー不足のまま本来の
クライマックスに突入してしまう。なんじゃ、こりゃ?
あくまでも推測なのだが、この結末はあまりにも「ナディア」に影響を受け過ぎ
ている。脇役同士の絡みも、田中芳樹や菅浩江を読み慣れた身には、薄っぺらに映る。
文体は平明でそれなりの格もあり、構想自体も悪くないのだが、処女作の出来が
良すぎただけに評価も厳しくなってしまった。第3作を読んでみて、判断致しま
しょう。


2000年1月8日(土)

◆ああ、いかん。夜に酒を飲まないと朝飯が美味いぞおお。これでは減量になら
ないではないか!!
◆朝から八千代・実籾定点観測。全体的に低調につき「からくりサーカス」を
2巻から10巻まで買い込んでむさぼり読む。うおお、早く次を読ませろおお!!
ついでに「美味しんぼ」の最新刊を久しぶりに本屋で買う。うーん、勢いとは
恐ろしいものである。
古本はこんなところ。
「歌麿殺人事件」水野泰治(講談社NV)100円
「暗殺幻葬曲」水野泰治(講談社NV)100円
「超怖い話2」樋口明雄(勁文社NV)100円
d「ネス湖の怪物」F&Jホイル(角川文庫)100円
「涙のミルフィーユボーイ」野原野枝実(コバルト文庫)100円
「小説 紅い牙」中尾明(白泉社)100円
「聖母大戦1」永井泰宇(徳間NV・MIO)100円
「電影馬賊団」樋口明雄(徳間NV)100円
d「新人獣裁判:狂殺の森」友成純一(大陸NV)350円
「血の領収書」島内透(広済堂文庫:帯)180円
「死の波止場」島内透(広済堂文庫)180円
d「惑星タラトス救出せよ!」Eハミルトン(早川SF文庫)140円
d「妖魔の宴:フランケンシュタイン編1」菊地秀行編(竹書房文庫)200円
d「ありえざる伝説」Wゴールディング他(早川FT文庫)150円
「大久保町の決闘」田中哲弥(電撃文庫)220円
「ハイスクール重機動作戦」樋口明雄(富士見ファンタジア文庫)190円
d「天保からくり船」山田正紀(光風社:帯)600円
「天保からくり船」は探究おせっかい本。即商談成立。ムーミン、仕事早いわ。
樋口明雄、これで富士見ファンタジア文庫も揃ったかな?友成は、しょうかないね、
どうも御縁がある本のようだ。はいはい、買わせて頂きますよ。聖母大戦も1が
入手できたので、読み出せる。OKOK。妖魔の宴もワンセット完成まであと
1冊。細かくみれば、まあ、それなりなんだけど、パワーはないなあ、と思って
いたら、最後に1冊ワタクシ的大ヒット!!
これだああ!!
「環妖の系譜:真崎守選集13」(ブロンズ社)1000円
なあんだ漫画かよ、と侮るなかれ。なんとこの本の中には、横溝正史「鬼火」と
江戸川乱歩「鏡地獄」と山田風太郎「虚像淫楽」をそれぞれ原作にした漫画が
収録されているのであーーる!!これは物凄く嬉しい1冊。
なにせ、あの真崎守だ!圧倒的な画力と時代を超越したセンス!早速、読んで
みたがまさに期待通りの出来栄え!!いやあ、1年ほど前にニフティでその存在
を知ってから、探すとはなしに探しておりました!!うふふふ。こういう本は
内緒で探すに限るねえ。

◆「燃えつきた橋」Rゼラズニイ(早川SF文庫)読了
昨日から入れてもらったML上で何故かこの作者が話題になっていたので、発作的
に手に取った。私にとっては「地獄のハイウェイ」以外では「アンバーの九王子」
「デルヴィシュ」の人なので、ファンタジーもこなす小器用な職人作家というイメージ
なのだが、なかなかどうして50年代の香気漂う骨太にして壮大な超人SFであった。
「人類とは、ある宇宙人が地球という惑星を化学物質で汚染して自らが住みよい
星にするためにプログラムした生物因子であった」という大風呂敷が、まず凄い。
たった数万年足らずでこの星をここまで疲弊させるのだから、これほど優秀な
バクテリアはないよね。ところが、その計画に竿さす超人が生まれた。彼は、
その驚異的な精神感応力のせいで一見精神薄弱にしかみえない子供時代を過ごす
のだが、月のセンターで治療を受ける内に、時空を超え、人類史上の変異種でも
いうべき過去の偉人たちの心に感応し「計画」の本質に迫っていく。そしてもう
一人の超人の導きによって、「最後の戦い」の舞台へと向かうのであった。
断片的に挿入される偉人たちの心象風景、地球を行き過ぎた文明から取り戻す
ために破壊活動を行う秘密組織、超人の親となってしまった者の苦悩、神話の
拠り所となったであろう巨大怪獣、時空を行き来し「計画」の破綻を導く観察者、
いやあ、なんとも懐かしい空想科学読物の道具立てがてんこ盛り。少々、視点の
入れ替わりに面食らうところはあるが、実に実に結構でございます。内面世界や
サイバー空間にSFが逃げ込む前にこのような元気の良い作品も書かれていた
のだなあ、と改めて見直した。決して作者の代表作でもなんでもないのだが、
これだけ楽しませてくれれば、及第点。敢えて「宗教」をモチーフにとらず、
神話的物語世界の範囲でカタをつけているのも好感が持てる。偉人となると、
つい宗教上の予言者を出したくなっちゃうところなんだけどね。「長けりゃ、
いいってもんじゃねえぞ」という事も思い出させてくれたのも吉。新しい人たち
との出会いは、まさしく新しい読書への誘いですのう。


2000年1月7日(金)

◆門前仲町定点観測
「堕天使殺人事件」二階堂黎人他(角川書店:帯)800円
「クロへの長い道」二階堂黎人(双葉社:帯)800円
「神州魔法陣」都筑道夫(桃源社)300円
「泥棒たちの昼休み」結城昌治(講談社文庫)350円
うーん、「神州魔法陣」って一体幾つの体裁があるのだろうか?
◆溝口大人のお誘いで大人の主宰するMLに加入。SF的集まりには群れた経験
がない(学生時代は一応SF研だったが、完全な幽霊部員)ので非常に新鮮。
薄者の喜びが込み上げて来る。
◆晩酌を止めてみて気が付いた事。「夜が有効に使える」「朝、腹が減る」
「夕食代が安く上がる」。おお、良い事づくめではないか。これまでは、一日
の締め括りに飲む酒が楽しみだったのだが、それはただの思い込みだったようだ。
酒屋の陰謀にまんまと乗せられてきただけなのだな、うん。そういう眼で見ると、
なんと酒のコマーシャルの多い事か。「証人に、よく冷えたモルツを!!」
いや、だから晩酌、やめたんだってば。

◆「北の別れ」南部樹未子(光文社NV)読了
日下仙人、石井女王様など一目おいている本読みの人たちが名前を挙げている
のに刺激を受けて手にとってみた女流作家の書下ろし作品。もう25年も前の
作品である。一読、感嘆。この小説の巧さは何?中味は男女の葛藤を描いた悲恋
もので、推理趣味は極めて稀薄な作品なのだが、とにかくやめられない。驚天動地
のトリックがあるわけでなし、巨大な陰謀があるわけでなし、ただ淡々と人と
人との心の触れ合いとすれ違いが織り成す人生の皮肉を綴った話なのだが、登場
人物の一人一人に命が吹き込まれている。「このキャラクターに会ってみたい」
という素朴な感情の虜にさせられる。同じ北の風土を舞台に、男女の交感を描くの
でも、佐々木丸美は、一流のパティシエの紡ぐチョコレート細工の感があるのに
対し、南部樹未子はあくまでも素材勝負の素朴で繊細な大和御飯。「たいへん、
おいしゅうございます」。
旅行雑誌記者と二人の女性。一人は、幼なじみにして今は彼の妻となった女。
いま一人は、旅先の北見で知り合った若き寡婦。不幸な生い立ちから愛に飢えた妻。
一家の愛に育まれながらも夫を病魔に奪われた寡婦。肉体でしか愛を確かめられ
ない妻。プラトニックな交感で心の大胆さに慄く寡婦。どこまでも対照的な二人
の女性の間で悩む男。過ぎた言葉が動機なら、秘められた言葉は凶器となる。
北の大地が男にみせたものは、見果てぬ夢?それとも。
カットバックを多用しながら描かれる二つの愛のかたちが鮮烈な印象を残す一編。
ただ読後感は爽やかとは言い難い。逃避するには余りにこのラストは痛い。
たまにはおセンチになりたい人向けの昼メロ風サスペンス。文格は高いです。


2000年1月6日(木)

◆高田馬場ビッグボックスへオチボ拾い。
d「タイムスリップ」スチュアート&ボズウェル(角川文庫)250円
d「就眠儀式」福島正実(角川文庫)150円
d「救助隊」福島正実(角川文庫)100円
d「真夜中の女」Dアンソニー(角川文庫)200円
d「天皇の密使」Jマーカンド(角川文庫:帯)150円
「世紀の女スパイ マタ・ハリ」Kシンガー(角川文庫)200円
「バベル消滅」飛鳥部勝則(角川書店:帯)700円
「ウイルキー・コリンズ傑作選12:毒婦の娘」(臨川書店)1200円
ついでにブックオフで
「死に急ぐ奴らの街」火浦功(徳間NV・Mio)100円
「悪霊になりたくない」小野不由美(講談社X文庫)100円
うーん、やる気の起きない収穫である。とっとと帰ってTVチャンピオンでも
見ていればよかったかな?
◆健康診断で再検査。結論、太り過ぎ。うがーうがー。本日より節酒モードに
入る。まあ、いわれてみれば確かに毎日飲んでるもんなあ。夜が長い。

◆「ナイン・ブライト・シャイナーズ」アンシア・フレーザー(九州ミステリクラブ)読了
菅さんからの賜り物。冷めないうちに読んでみた。解説で、熱い思いが語られて
おり、やはり最近の西洋古典復興に関してROM誌・氏の果して来た役割の大きさ
を評価(森英俊さんの加入はもう少し後にずれているようにも思うが、実際
はどうなんでしょうね?)。ただ、その紹介はどちらかといえば本格偏重である
として、あちらでの人気の割には、日本での紹介が一向に進まないこの女流作家に
スポットを当ててみたとの事。なるほど、読んでみると確かに本格ではない。こんな話。
夫に捨てられた傷心のジャンは腹違いの兄エドワードの誘いに乗って二人の子供と
ともにオーストラリアから故郷の英国の街シリンガムに里帰りする。ジャンと
エドワードの亡父は30年前インカの失われた街を発見した事で有名な探検家で
あった。探険隊のメンバー3名は夫々に英雄となったのだが、彼女たちの父に
とってはその探険が最後のものとなっていた。メンバーたちは昔から家族付き合い
をしており、エドワードの妻ロウィーナの亡父もメンバーの一人であった。ジャンは
もう一人のメンバーの息子であるマイルズとも旧交を温める。父の衣鉢を継いで
冒険稼業に明け暮れるエドワード夫妻が南米に旅立った後、シリンガムで連続
殺人が起きる。最初は、ルポライターが水のない場所で溺死しているのが発見
される。包帯を巻かれシークインを服に縫い付けられたその死体はなぜかエドワード
の財布を持っていた。奇妙な死体の状況は何を物語るのか?続いて、ジャン親子が
身を寄せるエドワード家の女中が殺された。シリンガム警察のウェッブ警部は
事件の背後に、探検隊の最後の旅が影を落していると睨むのだが、、
主人公ジャンの境遇がどことなくナイオ・マーシュの登場人物を思わせる。子供
たちがそれなりに重要な役回りを演じる所も微笑ましい。ただ謎の正体は、題名
にも暗示されており、意外なものではない。真犯人もお約束。フーダニットよりも
ホワイダニットに力点をおいた、という割には犯人の考えがエキセントリックで
あり、今ひとつ納得がいかない。クライマックスの展開などはさながら火曜サスペンス
であり面食らった。事件の謎を追ってウエッブ警部が地球の裏側まで飛ぶという
サービス精神には敬服するが、お手軽感が最後まで残った。あくまでも女性読者を
対象に書かれた民俗学サスペンスといったところか。謎のほぐし方もどことなく
ぎくしゃくしていて、私家版で英国女流推理作家の紹介を行うという情熱には
敬服するものの、ワタクシ的には原書まで追っかける程の情熱は、かき立てられな
かった。菅さん、ゴメンナサイ、あたしゃやっぱり本格マニアだわ。


2000年1月5日(水)

◆おーい、春都さんよー。「うしおととら」は、全巻読んで初めてその見事な
辻褄合わせに喝采する「大河ドラマ」だよう。3巻読んで見切らんでくれええ。
とりあえず20巻、21巻に登場する設楽水乃緒さんは凄く格好ええぞおお。
(個人的には星矢の十二宮編、ジョジョの第三部に匹敵する超燃えの少年漫画
だと思うちょります。)
◆錦糸町そごう古本市初日。「へーん、どーせ何にもないもんね」と思いつつも
帰り道ともなると覗かねばなるまいと錦糸町回りで帰る。こじんまりとしている
上に閑散とした雰囲気がいいですのう。
でもさー、本当に何にもないねえ。ふう。こんなところ。
「Wisdom's Daughter」H.R.Haggard(Delrey)100円
「Collected Fantasies」Avram Davidson(Berkley)100円
「Or All the Seas with Oysters」Avram Davidson(Pocket Book)100円
「Time Out of Mind」Richard Cowper(Pocket Book)100円
「Heavenly Breakfast」Samuel R. Delany(Bantam Book)100円
「Weird Heroes 2」edt.Byron Preiss(Pyramid)100円
「Weird Heroes 8」edt.Byron Preiss(Jove)100円
「The Best of John Sladek」(Pocket Book)100円
「Doctor Who and the Revenge of the Cydermen」T.Dicks(Pinnacle Books)100円
「Doctor Who and the Masque of Mandragora」P.Hinchcliff(Pinnacle Books)100円
d「五人対賭博場」Jフィニイ(早川ミステリ文庫)150円
d「黄金郷の蛇母神」Aメリット(早川SF文庫)150円
d「団蔵入水」戸板康二(講談社)400円
ついでに駅前のなげやりな古本屋で2冊。
「アンデス城塞の黄金」在沢伸(ソノラマ文庫)190円
「名探偵は千秋楽に謎を解く」戸松淳矩(ソノラマ文庫)190円
SFのペーパーバックでは、スラデックのベストがちょっと嬉しいかなあ。余りの
安さについ「読まない可能性極大」の本を買い込んでしまった。とほほ。英語に
自信のある我と思わん方、お譲りしまっせえ!!

◆「誘拐」田中文雄(集英社文庫)読了
さて題名をご覧になってこの作者を当てた方はそういないであろう。なにせ通常「誘拐」
といえば木彬光である。変化球で昨年話題を呼んだ映画のノベライズ、という読みは
あっても、まーさーかー田中文雄とは思うまい。かく申す私もつい最近まで作者にこんな
作品があることすら知らなかった。先日、溝口大人に集英社文庫からは五冊ですよ、と
教えてもらってからである。その目になって探してみると、なるほど「あったよー」。
出勤初日なので軽めの本でと思い手に取った。
プロットは至って単純。夫と別れ事業家として成功した元女優の愛娘が誘拐される。犯人
の要求額は一千万円。それは奇しくも、尾羽打ち枯らした前夫がその朝無心してきた借金
の額と同じであった。果たして、実の父が娘を誘拐したのであろうか?脅迫電話の指示で
単身受け渡しに臨む主人公。しかし、彼女の行動を不審に思った現在の恋人がその取引に
水を差す。そして再度の脅迫電話では要求額は五千万円に跳ね上がった。自らの幼児体験
から警察不審になった彼女は苦悩するが、その彼女の前に再び前夫が現れた時、事件は
新たな展開をみせるのであった。
実にリーダビリティーの高い誘拐サスペンス。登場人物を必要最小限に絞り、スピーディー
な展開と派手な道具立てで読者を引っ張る手並みは、テレビの2時間サスペンスを彷彿と
させる。事件の仕掛け自体にはさしたる新味はなく、新たなトリックが仕組まれているわけ
でもない。しかし、これはこれで仕事になっている。勿論、2時間サスペンスの範囲において
であるが。再刊される可能性は寸毫もないお手軽なサスペンスであるが、話の作り方の教本
としては、有効かもしれない。それにしても、何を書いても65点の人だねえ。


2000年1月4日(火)

◆トップページの画像を、Masamiさんにクリスマスプレゼントにもらった圧縮画像
に張り替えてみました。「とにかく重い」という悪評紛々たるものがあったトップ
ページでございますが、これで改善されたと思います。いかがでしょう?
Masamiさんどうもありがとうございました。
◆もらった年賀状を見ていると、中学高校時代に推理小説同好会で一緒だった
旧友がこのホームページを見ているのだそうな。うわっ、照れくさ!まあ一般
に公開しているものなのだからそんな事があるのも理解できるが、むむむむ、
見たなら見たで、掲示板にでも書き込んでくれい。貴方の事ですよ、O井君。
◆ああ、冬休みも本日で最終日。南砂町・西大島・亀戸定点観測。
「ヴァンパイア特捜隊」樋口明雄(富士見ファンタジア文庫)280円
「高層の侵撃:スケアクロウ・コマンド2」樋口明雄(中央公論社)390円
「叛撃の孤島:スケアクロウ・コマンド3」樋口明雄(中央公論社)390円
「不思議の国のアリバイ」芦辺拓(青樹社:帯)1000円
「文福茶釜」黒川博行(文藝春秋:帯)800円
d「殺人者なき六つの殺人」Pボアロー(講談社文庫:帯)50円
「トンネル駅連続怪死事件」種村直樹(徳間NV:帯)100円
「JR「ガーラ湯沢」新雪事件」種村直樹(徳間NV:帯)100円
「ワインレッドの殺意」野村正樹(勁文社)100円
「紅白歌合戦爆破事件」野川南(ミリオン書房)100円
「バカンスは死の匂い」Mマディエ(角川書店:帯)100円
「文庫目録トルト6号」(文庫の会)100円
「迷宮の獣王」田中文雄(徳間NV:帯)200円
「酔拳」萩原亨編(秋田書店ムービーコミックス)400円
「拳精」渡辺信編(秋田書店ムービーコミックス)400円
「蛇拳」菅野誠一編(秋田書店ムービーコミックス)400円
「笑拳」菅野誠一編(秋田書店ムービーコミックス)400円
「少林寺木人拳」山下幸雄編(秋田書店ムービーコミックス)400円
「五福星」渡辺信編(秋田書店ムービーコミックス)400円
「スパルタンX」蝦名郁夫編(秋田書店ムービーコミックス)400円
「プロジェクトA」蝦名郁夫編(秋田書店ムービーコミックス)400円
「スパルタンX」(宇宙船文庫:帯)200円
漫画を2冊
「美味しんぼ70、71」花咲アキラ/雁屋哲(小学館)各350円
樋口明雄がぼちぼち揃い始めております。後は牧村優名義の小説ルパン三世が
しんどいかも。「紅白歌合戦爆破事件」はゲテミス。JASRACのOBの作品
らしい。うふふふ。秋田書店のジャッキーチェンのフィルムストーリーはかなり
纏まって出ていたのであっただけ一気買い。それでも全体の半分ぐらいなのだ
から流石ジャッキー!この辺りの作品は真面目に映画館で見たものであります。
メインの収集ゾーンではないので、映画マニアで欲しい方はお声掛け下され。
買い値でお譲り可。
◆思いがけなくも、九州ミステリクラブの菅正明さんから献呈本到着。
「ナイン・ブライト・シャイナーズ」アンシア・フレーザー(九州ミステリクラブ)
アントニア・フレーザーと紛らわしいお名前の英国女流ミステリ作家の87年
作品の私家版訳。ありがたや、ありがたや。ROM的つながりの有り難さよ。
早く読んで御礼方々感想を送らねば。
◆実はもう1冊、さる所から分厚い同人誌が届いたのだが、まだ内緒。一般公開
は1ヶ月以上先らしい。ヒント:私も書いてます(<ちっともヒントなっとらん!)

◆「象と耳鳴り」恩田陸(祥伝社)読了
恩田陸のミステリ魂が炸裂する話題作。なにせ装丁が創元クライムクラブまんま
である。贅沢を言えばこれにきつい函が付けば完璧。喜国さんの顰にならって
でっち上げますか?その際には、函の色遣いは、中味と別の色にするのがポイント。
というような、コアなミステリマニアの心を擽る仕掛が、作品自体にも横溢する
贅沢な短編集。正直、一気に読むと少々疲れる。それほどに一編一編の密度が
濃い。一晩に一つずつ異なったリキュール・ボンボンを楽しむように楽しむべき
逸品である。ある時は端正なフーダニット、またある時は「9マイル」、更には
「推理バラエティー誰もいない部屋」、またまたある時はホラーな後味のリドル
ストーリー、またある時は「安楽椅子探偵」、しかしてその実態は、正義と真実
の使徒、引退判事:関根多佳雄の事件簿だ!!以下ミニコメ。
「曜変天目の夜」最古にして最強の殺人者を描いた作品。少し技巧に走り過ぎ。
「新・D坂の殺人事件」今日的な舞台で今日的に不可思議な死の謎が解体される。
題名からうける印象とは全く異なるが、悪くない。
「給水塔」これのみ再読。後味の悪さは天下一品。感心するが好きにはなれない。
「象と耳鳴り」挿話の不気味さに本編が負けている。表題作になるほどの力はない。
「海にゐるのは人魚ではない」一種の「9マイル」なのだが、ツイストの連続に
唸る。よくぞこの短さと単純な設定でこの「迷宮」を設定したものだ。
「ニューメキシコの月」感動の正体は借景であるので割引くべきだが、映像的に
あとを引く話。風や、空間を感じさせる小説。
「誰かに聞いた話」掌編だが、これはブンガクしてますなあ。立派。
「廃園」幻想的な設定の裏にある、物理的な悪意とその解体の過程が素晴らしい。
「待合室の冒険」自称「9マイル」だが、これはいくらなんでも飛躍しすぎ。
「机上の論理」そうですね。この落ちしかないですね。楽しんだので許します。
「往復書簡」うーん、安楽椅子探偵なのだが、これも少々飛躍がありすぎ。
「魔術師」都市伝説をこれでもかと盛り込んだうえで、快刀乱麻を断つ解体ぶり
をみせつける。さすが長篇のアイデアを短編にぶち込んだだけあって贅沢な作り。
これは、後から長編化してもよいのでは?
総括:純粋論理ころがしになるとやや遣り過ぎ感もあるが、これだけバラエティー
に富んだ本格ミステリ集は珍しい。質的にはまさに「クイーンの定員」の域で
ある。絶賛。しかし読めば読む程「恩田陸」という作家が掴めなくなる。うーむ、
平成謎文学の空蝉処女って感じいい。


2000年1月3日(月)

◆新大阪8時半発のひかりで上京。東京で途中下車して八重洲古書センターの
300均棚でお買い物。先日、よしださんがスーパーのチャリティー市で大量に
拾ったリーダーズ・ダイジェストが山と積まれている。大阪での買い物をそのまま
鞄に詰めた状態でリーダーズ・ダイジェストをひたすらめくる。ああ、あんさんアホや。
収録作を全部書き出すのも空しいので、お目当てのみを以下にリストアップ。
それぞれ1冊に1編しか入っていないところが泣かせるじゃないかあ、おい!
「海の彼方の遺産を追って」ネビル・シュート
「サーカスの怪火」メアリー・スチュアート
「狙われている花嫁」ビクトリア・ホールト
「暗い影を追って」アンドリュー・ガーヴ
「狙われた男」マイケル・ケニアン
「アルプスの失踪者」ルシール・フレッチャー
すべてリーダーズ・ダイジェスト、各300円。
一番驚いたのはガーヴの「暗い影を追って」。これが、ガーヴの翻訳がバタっと
途絶えた「罠」の次の作品(The Ashes of Loda)なのである。ううむ、怖るべし、
リーダーズ・ダイジェスト!!!!
ついこのあいだまでは、アリンガムさえ押さえておけばいいな、と思っていたものが
ギャリコのオカルト・ミステリはあるは、ビクトリア・ホルトはあるは、それに
何いい??、ガーヴだとおおおお!!!!嘘でしょ?ねえ。一体この先何がある
のやら。ああ、知れば知るほど欲しい本がふえていくううう。
◆更に新春ビックリ大会。いい加減、御満悦で引き上げようとすると「あら!」
と声をかける女性が。いつものマッシュルームカットにパンツスタイル。小粋に
リュックを背負ったその姿こそ、あああ、なんと石井アイドル女王様ではないか!!!
聞けば、銀座松屋の帰りとか。勿論ハイソなマダムが群れ集うミレニアム福袋が
お目当てではない。本日初日の古本市の帰りらしい。おおおお、松のとれないうち
から旦那をおいて、古本漁るか?貴方は、貴方様は!!!さすが、流石である!
初日にはちゃんと彩古さんも「何もないと思ったんだけどねえ」と参戦されていた
模様。そうと聞いては、顔を出さない訳にはいかない。ああ、こんな大荷物抱えて
行くの?銀座へ?わし?
◆八重洲のコインロッカーに荷物を押し込んで金井書店の百均で拾い物。
d「英雄の誇り」Pディキンスン(ポケミス)100円
そこで再び石井さんと遭遇。「やっぱり!」。済みませんねえ、やっぱりで。
◆ぶらぶらと京橋から銀座3丁目まで歩く。駅伝の準備で交通規制が始まって
おり、沿道には善男善女が旗を持って人垣を作っている。ああ、正月だねえ。
途中で、新聞社の人から小旗を押しつけられそうになる。す、済まぬ。貴方には
信じられない事かもしれないが、この時間ここをそれ以外の目的で歩いている
暇人も居るのだ。居るのですよ。ああ。
松屋の8Fへエスカレータでボンヤリ上がる。朝一番はがらがらだったらしいが
それなりの人出。しかし、いかんせん美術書・書画・黒っぽい本のオン・パレード。
これは、エンタテイメント・オンリー人間には辛い。「どうせ、石井・彩古の
二大怪獣大暴れの跡だもんね。ぺんぺん草一本残ってないもんね」モードで
なげやりに見て回る。一つ、思いっきり悩むものにぶち当たる。そこはそれ、
正月モードで買ってしまう。うーん、ちょっと後悔だわなああ。
「小説公園」S33年2月号(六興出版部)300円
(Sパーマー「スナフー殺人事件」所載)
「小説公園」S32年9月号(六興出版部)300円
(日影丈吉「爆発」所載)
「探偵秘録:眼(まなこ)」小泉そう之助(忠誠堂)3000円
「運河の秘密」Gシムノン(京北書房:帯)2000円
まあ、ここまでは良しとしましょう。シムノンは併載の「北海の惨劇」狙い。
この本が帯付きで2000円ならOKでしょ?
問題は、こいつだ!!
「チャチャ・ヤング・ショート・ショート」眉村卓編(講談社)
なんとお値段1万円!うへえ。
実は署名入りなんですね。それもありがたいお言葉入りなんですね。
「ヨットは逆風でも前進する 眉村卓」
うーん、なんなんだ?
でも、いい。買っちゃう。とりあえず参戦した証だ。まあ探究本だった事もある
のだが、せいぜい署名さえなければ1500円が相場だよねええ。
今年も高値掴みが続くのか?これを最後に足を洗うのか?括目して待て!諸君!!
(ほとんどヤケクソ)
◆うーん、WOWOWの「怪」第1話、見終わったんですが、なんでんねん?これ?
この整理の悪さはトホホでございますよ。期待が大きかっただけに落ち込みも
激しいなあ。もっと必殺に徹するなら徹するでいいのに、なんとも中途半端。
もともとハングマン的な元ネタで必殺させようというところに大いなる企画ミス
があったとしか思えませんのう。あー、もう!!折角、佐野史郎使ったのにいい。
はっきり言います。全くダメ!時間と金の無駄使い!!瑣末なこだわり以外に
見るべき所なし!

◆「グラブ街の殺人」Bアレグザンダー(ポケミス)読了
ロンドンの警察事始め。ボウ・ストリートの捕り手を組織した盲目の治安判事
サー・ジョン・フィールディングを探偵に据えた異色の時代ミステリの第2作。
語り手に、判事の右腕となる13歳の少年ジェレミー・プロクターを配し、18
世紀末の風俗を克明に追う事で物語に彩りを添える趣向は、あざといまでに読者
の心を捉えて放さない。本作では、更にジェレミーの友人として、ロンドンの
貧民街育ちの悪ガキを登場させ、ショタコン層へのとどめの一撃を刺そうという
心配り。第1作が、大時代なトリックを見事に作品世界で花咲かせた名編だった
ので、非常に期待して手にとった。
ジェレミーが翌日から奉公に出る筈だった出版業者一家が惨殺される。現場で
凶器を持って立ちすくむのは、その業者から処女詩集を出した農民詩人。しかし
その詩人の心には三つの人格が棲んでいた。心神喪失を理由に第一容疑者を精神
病院送りにするフィールディング判事。一方、ロンドンでは、新天地アメリカ
から逆輸入された歪んだファンダメンタリストの教義を持った一派がユダヤ人
の改宗を目的に活動を開始していた。果して、盲目の判事は惨殺の真相をつきとめ
正義の裁きを下す事ができるのか?九死に一生を得たジェレミーは正式に判事の
助手となり、世紀末の魔都に人の真実を追う。
てな、話なのだが、正直、期待外れ。既に第2作で作者はこのシリーズには推理
趣味は不要との判断を下したとしか思えない。典型的なキャラ読みファン対象の
時代小説というのが率直な印象。取り上げられるテーマがカルトと多重人格と
いういかにもイマ風の題材であり、なおかつメインのプロットには何の捻りも
ないときている。売れるために何が必要かは知っていそうだが、どうもこの作者
はミステリ書きではない。心から残念である。どうか、ポケミスは「吠える男」
のシリーズを紹介して、ミステリ叢書としての良識を見せて欲しい。頼む!!
あ、でも、悔しいけど小説としては面白いです。はい。



2000年1月2日(日)

◆本日はバスに乗って、南の方にあるブックオフ詣で。元旦の新聞チラシに
入ってたんだもんね。これで行かねばバチが当たろうというものである。最早
親は呆れて文句も言わない。
d「殺人はリビエラで」Tケンリック(角川文庫)100円
d「おもいでエマノン」梶尾真治(徳間文庫)100円
「別世界シン少年隊」宮崎惇(ソノラマ文庫)100円
「赤い魔書は心のままに」十々樹りえ(ソノラマパンプキン文庫)100円
「カーネーションの午後」秋月達郎(ソノラマパンプキン文庫)100円
「外宇宙の女王」ABチャンドラー(徳間NV)100円
「聖母大戦2」永井泰宇(徳間NV)100円
「聖母大戦3」永井泰宇(徳間NV)100円
「聖母大戦4」永井泰宇(徳間NV)100円
「聖母大戦5」永井泰宇(徳間NV)100円
d「ザ・サバイバル」Jハーバード(サンケイNV)100円
「キャンパスはミステリー」玉川散歩(広済堂)100円
「月花霧幻譚外伝」福井健太(ソフトバンク)100円
「グリーン・トレイン上」Hリーバーマン(河出書房新社)100円
ふう、やはりパンプキン文庫は河岸を変えると見つかるものなのだ。私のメイン
の狩り場である城東から千葉北部に少なかっただけなのかも。リーバーマンは
上巻しか見当たらず。掟破りのストッカーまくりまでかけたのだが空振り。
まあ、気長に探しましょう。

◆「ポンスン事件」FWクロフツ(創元推理文庫)読了
クロフツの「樽」に続く第2作。なんと1921年の作品である。クイーンもカー
もヴァン・ダインもおらず、かろうじてクリスティーが幸運にも第1作を上梓
してもらえたというそんな時代のお話。そんな時代のレギュラー探偵でもない
地味な作品が今なお書店で買える(筈)というのは、まさに奇跡である。欧米での
クロフツの扱いを顧みるに、ここ日本での異例ともいえる厚遇振りにはさぞや草葉
の陰でクロフツ先生も随喜の涙を流しておられる事であろう。よよよ。昨年来、
この作家を再発見してきた私もいよいよ読み残し作品が少なくなってきた。でも、
既読のものも再読すると必ずや非常に新鮮に楽しめそうで怖い。なにせ、ストーリー
はおろか、犯人すら覚えていないのだからなあ。これはさて、喜ぶべき事なのか?
この作品でも探偵はタナー警部という地味な警察官である。重要人物を追って
パリの市内を民間人の車ですっ飛ばすというアクロバットも演じたりするが、
基本的には、現場百回。こまめに足跡の石膏をとって、残された紙片の文字を
手掛りに電話を掛け捲るという努力の人である。事件は、ポンスン氏なる、一代
で富を築き上げた立志伝中の人物が、突如失踪し、やがてその館の下流で水死体
となって発見される。被害者の死で遺産を得る息子と甥に容疑が掛かるが、夫々が
鉄壁のアリバイを主張する。一旦、晴れかかる容疑が新たな目撃者の登場で再燃し、
獄中の人となる息子。そこに立ち上がる息子の婚約者。やがて彼女は、警察が見過ご
した手掛りから、今ひとりの容疑者である甥アリバイを崩すのだが、、
うーん、面白いじゃないかあ。「樽」がパズルの極致を行く作品であるとすれば、
この「ポンスン事件」は、幾つものアリバイトリックを惜しげもなく盛り込んで
少々恋愛もののスパイスも施した贅沢な作品である。真相は少々腰砕けな感も
あるが、ここまで楽しませてくれれば及第点。ほんと、誰だよ、クロフツが退屈だ
なんて言う奴は?


2000年1月1日(土)

◆あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。
本日から、この日記は「世紀末古本血風録 THE MILLENNIUM」に
突入致します。本年も、力の続く限り買って、読んで、書きまくりたいと存じ
ます。何とぞ、倍旧のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。
◆というわけで、実家から徒歩30分、年中無休の「古本市場」に初詣。
d「殺したくないのに」Bウッド(集英社文庫)200円
「セントメリークラブ物語2」野原野枝実(MOE文庫)200円
「サラリーマン清水港」笠原良三(春陽文庫)200円
d「宇宙料理店」津山紘一(コバルト文庫)50円
「アトリエ殺人事件」高原弘吉(コバルト文庫)50円
「制服のマリア」竹内志麻子(コバルト文庫)50円
「星降る街に」牧村優(コバルト文庫)50円
d「積木の塔」鮎川哲也(角川文庫)200円
「インプリンティングの妙薬」高井信(ソノラマ文庫)200円
「賢者の首」瀬川笙(ソノラマ文庫)200円
「暗黒の輪」瀬川笙(ソノラマ文庫)200円
「双龍伝1」古神陸(小学館SQ文庫)200円
「双龍伝2」古神陸(小学館SQ文庫)200円
「悪魔たちの学園祭」十々樹りえ(ソノラマパンプキン文庫)200円
「ダン警部の24時間」Rジェフリーズ(学研:函)95円
ふにゃあ。まあ、たいしたものがあるわけじゃないよね。
とりあえず、ひさしぶりのパンプキン文庫自力ゲットがちょっと嬉しい程度。
それにしても、「古本市場」の値付けシステムが今ひとつわからんぞおお。

◆「死はわが隣人」Cデクスター(ポケミス)読了
モース主任警部のファーストネームが明かされる、という事で話題を呼んだモース
ほとんど最後の事件。閑静な住宅街の殺人にオックスフォード大学の学寮長選挙が
絡むというデクスター自家薬籠中の設定、逆に言えば新鮮味のない作品である。
学校を舞台にするのであれば「ニコラス・クインの静かな世界」があり、ご近所
殺人ならば「ジェリコ街の女」「別館三号室の男」などがある。複雑な人間関係
(なかんずく男女関係)を軸に、殺意の在処についての仮説と検証の螺旋的進行を
描くといういつもながらのデクスター節ではあるものの、いまひとつ薄味の感は
免れない。作中でモースが糖尿病を患い強制入院させられるくだりもあって、
そこかしこに「滅び」の雰囲気が漂う。振り返るとかなり複雑なプロットの割には
絶頂期の作の如き五里霧中感がなく、折角のひねりも直線的に語られてしまってい
る。また、ルイスの方がツキに恵まれ、モースはどちらかといえば空振りの連続
という趣向も、従来ではあまり見られず、ましてや、事の最後にモースがルイスに
心からの礼状を送る(これにファーストネームが記される)というのも、前代未聞。
デクスターが本編をもってモースの引退を考えていたという事が、ひしひしと
感じられて従来からの読者としては寂しさを禁じ得ない。
テレビ化された事で、本国でホームズを凌ぐ最も人気のある名探偵の座を勝ち得た
はいいが、やはりあれだけ緻密なミステリをそう量産できないという事であろう
か。そう考えれば、この作品の工夫のない設定も、デクスター自身の「卒業論文」
故のファンサービスと受け取るべきなのかもしれない。私が読むなといっても
皆んな読むだろうから、何も言いません。ただ、デクスターの尻を叩いてモース
復活を言い募った人々は、後から「これで終わっておけば良かったのに」とだけは
言う勿れ。うーん、正月早々元気のでない本を読んでしまった。


99年12月31日(金)

◆朝から大阪へ移動。ちょこちょことキタの古本屋に定点観測をかけてみるが
専門大店のスバル以外は30日で営業を終えていた模様。とほほ。勿論、収穫0。
うぬぬ、おのれY2Kめ!!

◆「名探偵登場」Wサタスウェイト(創元推理文庫)読了
長めの作品は、新幹線の移動時間などにこなすに限ると、ちょいと分厚いこの
作品に挑戦。ネットの各掲示板でエラリアーナ氏にとことんこき下ろされていた
ものの、一応あの「リジーが斧をふりおろす」(結構、好き)の作者の手になる
作品でもあり、フーディニとドイルとピンカートン探偵社が絡み、英国の旧家での
幽霊騒ぎあり、降霊会ありの話題作である。まずはこの目で確認するに如くはなし。
で、結論。なるほど、これはガチガチの本格マニアなら怒るわ。なにせ一見、本格
の要素を盛り込んではいる。一応、密室殺人。一応、意外な犯人。一応、本筋以外
でもどんでん返しあり。しかし本格推理が拠って立つところのフェア・プレイ精神
に欠けている。訳題の本歌である映画「名探偵登場」には、そのフェア・プレイ
を笑い飛ばして余りある本格推理への「愛」の深さがあったが、残念ながら本作は
時代背景や有名人についてのリサーチは行き届いているものの本格推理や名探偵
への愛情といったものが感じられない。深読みの山口雅也解説ではカーが引き合い
に出されていたものの、ボクシングや密室というキーワードはカーでもあるが、
それ以前にドイルであるという事を押さえて頂きたかった。これでは、牽強付会、
我田引水、贔屓の引き倒しの謗りを免れまい。原題の「ESCAPADE」は
直訳すれば「脱線」「とっぴな行為」てな意味。これに脱出王フーディニが絡む
のだから、映画に当てはめれば「おかしなおかしな大脱出」くらいの題名が相応し
いドタバタ推理劇である。ただ、その邦題と解説の誇大表示をさておけば、当時の
貴族階級と大衆の葛藤、科学とオカルトのせめぎあい、ピンカートン流探偵法など
を楽しめる作品であり、悪くない。「幽霊が多すぎる」の如き志の高さを期待せず
最早素直に本格できなくなった90年代の懐古趣味的スラプスティックと割り切って
お読み下され。