夏の北鎌尾根  ルート情報

記・三堀

 夏季に北鎌尾根をトレースするなら、北鎌沢右俣を詰めて北鎌のコル(P7・P8のコル)から尾根を辿るのが王道になっている。
 末端(P2)から辿るには、湯俣から水俣川のアプローチが悪い上、北鎌尾根下半部は藪がうるさく時間もかかる。そのため敬遠されがちである。
 今季トレースした「大天井越え」ルートを報告しておこう。


【ルート】中房温泉〜合戦尾根〜燕山荘〜大天井ヒュッテ〜貧乏沢下降〜天上沢〜北鎌沢右俣〜北鎌のコル〜北鎌平〜槍ヶ岳

アプローチ

 北鎌尾根へのアプローチだけでもトレッキングとして充分手応えがある。
 中房(なかぶさ)温泉から日本三大急登として知られる合戦尾根を登る。合戦小屋(宿泊不可)には名物のスイカ(1/8カットで800円)があり、なぜか大半の人が食べている。高いがうまい。小屋からは高山植物の美しい緩やかな尾根を辿ると燕山荘(えんざんそう)に出る。晴れていれば景色が一気に開け、疲れも飛ぶところだ。
 燕岳山頂は逆方向になるが、ゆっくり往復しても1時間はかからない。

牛首展望地より 夕暮れの北鎌尾根 燕山荘から表銀座を大天井へと、風情ある緩やかな稜線歩きとなり、喜作レリーフの先の分岐を右に行くと、大天井岳の巻き道となる。
 再び登山道が出合うコルに大天井ヒュッテがあるが、幕営はできない。
 すぐ上の牛首展望地からは天上沢を挟んで北鎌尾根がよく見える。

 大天井ヒュッテから山稜の左を行く登山道を20分ほど歩くと、貧乏沢下降点。道標があったようだが、2003年8月には道標の板切れが道端に置かれているだけだった。
 踏み跡通りに藪に入り、左下へ下ると、急な下降が始まる。藪とガレ場が交互に出てきて、やがて右後方から水流が現れる。7月は雪渓があることもありそうだ。
 沢通しに下れないところは左岸に踏み跡があるが、明瞭とは言えない。だいたい沢を外さずに下れば間違いはない。
 左岸の踏み跡には下部に一箇所3メートルほどの岩場の下降があり、ちょっと嫌らしい。

北鎌沢出合 右側の緑のラインが右俣 天上沢に出た辺り、上流に向かって数カ所幕営場が作られている。右岸(左側)には良い岩小屋まである。やがて広河原となり、左岸(右側)に沿って歩くと、貧乏沢から20分で堆積岩の北鎌沢出合となる。北鎌沢の正面に急登している緑のラインが右俣で、それを目指して登ると思うと、やや気が遠くなる。

 ほどなく本流の風情の左俣が分かれ、標のついた右俣へ入る。10分ほどでいくつもレリーフが埋め込まれている大岩が左に現れる。やや遡った辺りで飲料水を確保するのが良さそうだ。左俣より水量は少ないが、おいしそうなのは右俣の方だ。あまり上に行くと水が涸れてしまう。
 沢をひたすら登り、高度をかせぐ。
 上半にさしかかった辺りで残置ロープのある3mの岩場が出てくる。それを越えると、更にやや上にもう一箇所残置ロープのある岩場があるが、ここは手前から左の草付を登って巻くこともできる。
 高山植物の美しい一帯になってくると、右俣の核心である急な草付の登りになる。足下は滑りやすく、草の根を掴みながらの登高で、休める場所がない。トレースは幾つかに分かれて消えかけるが、稜線へ向かって明るく開けているところに、最もしっかりつけられている踏み跡を選べば間違いはない。
 徐々に傾斜も落ち、ようやく尾根が見えてくる。最後のジグザグのザレを登ると平らなサイトがひとつ作られた尾根に出る。
 表銀座縦走路から700m以上下り、同じだけ登り返したことになる。

 ここで、大天井ヒュッテから槍ヶ岳までの行程の半分来たと言えるが、ハイライトはようやくここから始まるのだった。


北鎌尾根

 しっかりした踏み跡を木の根登りで辿るとP8、P9と越えて行く。右に巻き道風の踏み跡が伸びているが、それは無視しして急だが尾根を外さずに登るトレースをとった方がいい。
 P9付近には二箇所ほど安定した幕営地が見られた。岩の小ピークは左右に巻きながら進む。
 正面に大きく聳える独標(2899m)は踏み跡通り右に巻くのが早い。巻き込んだ辺り高度感あるチムニーに豪勢に残置ロープが垂れているが、装備が無ければ登る気も起きない。
 トラバースを続け、目線を遮るカンテラインを2つほど超えると行き詰まり、残置ハーケンのある左の岩場を登らされる。V級ほどだが、その先にもすぐに3mの嫌らしいクライムダウンがある。
 もうしばらく巻き道を辿った後、稜上へ向かって登って行くと、かなり近付いた大槍との対面となる。
 稜線に出て登り切ったところがP11。
 ここより、P13付近から右に巻く辺りまでが最も嫌らしいところだろう。

 積雪期と違って岩は極端に脆く、夏季はむしろ危なくなる。ひとつふたつ小岩峰を巻き、右(千丈沢)側に付けられたザレのトラバース道を辿ると、残置スリングのある岩場が落ちている。ここをロープを使って下るが、クライムダウンもできる程度だ。ザレを登り返し、稜線へ出る。

 この辺りは踏み跡もよく分かれていて、はっきりルートが決まっておらず、正規ルートというものはない。ルート取りは登山者それぞれの感覚に頼るしかなさそうだ。ただ稜線を離れ過ぎないようルートを取った方が、迷わず、結局は早いようだ。

 P12の先で左(天上沢)側に少し下ったところ、非常に脆い岩とザレたルンゼになった。右の岩峰から残置ロープが垂れており、そこへと登り返して自分のロープを使って20m余り右(千丈沢)側へ下降。また尾根目指して登り返す。

 P13へはほぼ尾根通しに進めるが、所々出る一手トラバースは高度感がある。
 右下へトラバースして行く比較的はっきりした踏み跡があるが、これに入り込むとハマってしまうという有名なトレースだと思う。いくつかの情報によれば、はるか下を危ういトラバースとなり、北鎌平へ長い登り返しをさせられるらしい。疲れているとこちらへ行きがちなのだろう。
 P13をパスする辺りの稜線近くに、右側にトラバースする道がもうひとつあり、こちらを辿ると、緩やかなP14、P15を簡単に巻いて行く。
 左の黒い大岩帯を登ると北鎌平に出る。

 稜線上の大岩帯を登るといよいよ大槍の取付だ。

 大槍の左へ伸びるバンドをややトラバースし、そこから頂上目掛けて直上する。頂上まで登攀距離100mほど。
 非常に複雑な地形のため、ルートは様々とられるようだが、落石の少ない比較的明瞭なラインを取って登った。
 始めは脆いが階段状の優しい岩場を20m登ると、傾斜が増し、残置ハーケンなども出てくる。浮石に気をつけ、更に20m登ると左上する凹角となる。それを越え、左へ数mトラバースし、脆いルンゼから今度は右上すると、大槍の核心となるチムニーが出てくる。数手登って右のフェースに移ると、ガバが多く登り易くなる。核心とは言えV+の域は出ない。
 ここでピークが間近となり、左へ巻くように進むと木の杭が見える。直上するやさしい凹角を登り頂上に出た。


 夏季の北鎌尾根は独標から大槍までおしなべて非常に岩が脆く、良いルートという印象は持てない。ヘルメットは必携である。大槍に突き上げる爽快さはいつ行っても同じだが、ここはむしろ積雪期に良くなるルートだろう。

 大雑把に参考タイムを記すと、
「大天井ヒュッテ〜北鎌のコル(6時間)、北鎌のコル〜槍ヶ岳山頂(6時間)」
 だが、パーティ力、体力によりかなり差が出ると思う。体力と登攀経験があるなら単独でさくっと8時間ほどでトレースできるだろうが、岩稜通過に慣れないパーティだと、ワンビバークを前提に考えた方が良さそうだ。