ジャンダルム飛騨尾根

2005/05/0304 同行 北村

 二年越しの実現である。といっても飛騨尾根にこだわりを持っていたわけではない。昨年計画が上がったが、直前に体調を崩し、やむなくキャンセルをしてしまったため、「じゃあ、今年こそ行こう」という話だ。
 今度は参加メンバーが五人になり、ひとつのパーティーで登るより、二つに分けてしまった方が、シンプルでスピーディーだろうと考えた。BCからアタック形式で登る三人パーティーと、こちらは装備を担いでトレースする北村氏との二人パーティー。

 アルパインルートは人数が多いほど待ち時間が多く、登攀スピードに影響が出る。積雪期では特にスピードは安全に深く関わる。動き続ければ凍傷や低体温症対策になり、速い行動は雪崩、落石に遭う危険を低くする。
 軽く、速くが今回の戦略。F尾根で一泊後、朝のうちにジャンを越え、沢筋を駆け下ってしまおうと考えた。
 下山ルートはジャンダルムから西穂側へ稜線を辿り、飛騨側の天狗沢を下るか、奥穂経由での白出沢を候補とした。また、軽量化を実践するため、用意したザックは
40L。二人でシェアできる装備はできる限り絞った。

F尾根2470m地点でツェルトを張る個人装備で削れるものは極力削り、防寒着はレインウェアのみ。登攀具、シュラフやマットを含め、何とか40Lに収めることができた。

3日は快晴。
 宿泊予定地は飛騨尾根下部の
F尾根2300m付近で、朝からのんびり歩き出す。
 
 夏場以上に干されるのがこの時期の通例で、穂高平で気温
24度、半そででも汗をかく。
 白出沢へ入り、正面に西穂沢を見て左へ折れる。この方角からはどれがジャンダルムかはっきりしない。奥穂からの見慣れた姿はなく、尖った岩峰が連なるばかりだ。
 夏道は見えず、トレース経験がないとうまく道がとれない。急傾斜の左岸に沿ってトラバースし、樹林帯を抜けて再び白出沢へ出る。

 白出大滝下段が上部に現れ、その下を右に上がっているのが天狗沢だ。出合の標高は1925mと地形図にあり、高度計もほぼ誤差なくその数字を示している。軽くデブリがあるが、今は雪崩の危険は感じられない。
 下山者に会い、白出沢は下降に問題ないとのことで、下山は奥穂経由白出沢と決めた。

天狗沢を距離で300mほど詰め、左のF尾根目指して登り抜けられそうなラインを見上げて取り付く。雪の傾斜が増し、アイゼンをつける。ふくらはぎの張る登りを続ける。足がつる。
 うまいこと雪が尾根の直下までつながっており、最後は草付と潅木の急斜を登って
F尾根上へ抜け出た。
 キャンプ予定の
2300mが近いが、周辺には適当な場所がなく、尾根が広がった雪の斜面を更に登り進む。
 樹林から、まばらなダケカンバ帯になり、ハイマツも現れてくる。
 
2470m辺りに傾斜の緩んだ幕営適地があり、斜面を切ってツェルトを張った。後続の大前さんら三人もここにBC用のエスパースを張る。

笠ヶ岳の山稜はまだまだ白く、雪庇も認められる。最近の暖かさで雪解けが進んだとはいえ、今シーズンの雪は充分残っている。陽が傾き、笠稜線の向こうへと沈むと、急激に気温が下がってきた。

飛騨尾根へのトラバース 翌4日、3:30発。
 見るほどに数を増す星と、頻発する流れ星。春の高山特有の雪とハイマツの香り。こんな時、来て良かったと思う。
 ヘッドランプで広く急な尾根を上がる。雪は良くしまり、前爪をきかせてさくさくと行ける。

飛騨尾根がどれなのか、判断がつかない。F尾根からは右手になるはずだが、暗くてはっきり見えず、右側を探る。F尾根はやがて上部で尾根がなくなるため、どこかで右へトラバースしなければならないが、そのポイントが定めづらい。急なルンゼと、その向こうは傾斜の強い岩と草付で、突っ込むのがためらわれる。
 
右側はルンゼへと急に落ち込んでいるため、広い斜面のハイマツ帯の左を登っていると、上部に雪のない小ピークが見え、尾根状が不明瞭になってきた。
 ハイマツを横切り、右のルンゼへ抜ける頃、ようやく明るくなり、飛騨尾根らしい岩色の稜線が上部に認められた。それは上部の尖った岩峰へ左上しているように見える。暗いため距離感がつかめなかったが、中ノ島のあるルンゼを
100mほどトラバースすれば、この上部から下っている尾根に乗れそうだ。飛騨尾根上部の岩場

 スリップするとたちまち振り出しに戻ってしまいそうな、ちょっと怖い雪のルンゼを横断する。
 中ノ島の下端を通過し斜上、最後は急な草付と岩を5
mほど登り、尾根へ上がった。

見上げるとそれはそのままジャンという天上への一本のラインとなっていた。
 
 間違いない、こいつが飛騨尾根だ。

 ハイマツを踏みながら登る。アイゼンで傷つけるのがしのびない。左は切れ落ちているため、右のアイゼンの良くきく草付などを巻きながら標高を上げる。

徐々に岩が多くなってきた。
 尖った岩峰を見上げる辺りで残置ハーケンが上に見え、そこからロープを出すことにした。とはいえビレーポイントが無く、ハーケンを一発打つ。
 
7mほどのクライミングで傾斜は緩み、1ピッチ半でガレ岩上の岩峰基部に達する。残置ハーケンが二つ。

 岩峰を右から巻くと急な雪のコルで、そこから岩場を1ピッチ右上。ここらが最も岩稜らしいところだ。明確な登攀ラインはなく、自分の目でラインを見つけるしかない。

風が冷たく寒い。

ジャンダルム直下更に1ピッチ、トラバースぎみに岩登りをすると、奥穂への縦走路が近く、ジャンダルムが目の前となる。ロープを解き、歩きでジャンダルムの頂点に立った。
 
8:30
 案外時間がかかったような気もするが、下山にはまだ充分時間の余裕がある。
 快晴。

穂高からのパノラマを満喫し、大混雑の奥穂へ向かう。
 侮り難い縦走路にはしっかり踏み跡がつき、見た目よりずっと容易だ。奥穂南稜には幾つものパーティーが取り付いている。岳沢にも多くのテントが張られている。

こんなに人が乗ると岩が倒れてしまうんじゃないかというほどたくさんの人波に紛れて、ようやく奥穂小屋へ降り、ギアを外して白出沢を駆け下った。
 新穂高の駐車場へ着いたのは
1:30pm頃か。

最高の天気の中、他にパーティーのない味のあるルートをライト&ファーストのスタイルでトレースできた充実感は大きい。飛騨尾根自体は短いが、周辺の地形は単純でなく、アプローチを含めたルート探しも楽しみのひとつだ。

以下に参考として今回の予備一日を含めた装備を列挙しておく。

奥穂より飛騨尾根を見る共同装備

・二人用ツェルト・ポール

・コッヘル:各自小1。

・小型軽量バーナーヘッド

・カートリッジ:250缶×1、110缶×1(予備)

・ロールペーパー:半ロール

・ロープ8.mm×50m×1

・スノーバー

・テントマット

個人装備

 ・食料:アルファ化米2食分×1、キャラバンのマーボー豆腐1袋、ラーメン×2袋、スープ×4袋、粉紅茶少々、アミノバイタル

 ・行動食:フルーツグラノーラに麦チョコを混ぜたものを500mlボトルに入れ摂取、ザバス(約15錠)

 ・寝袋、半身用エアマット、

・登攀具:ハーネス、ルベルソ、カラビナ×6、スリング(長2、短2、ロープ2)、ヌンチャク×3、ハーケン3種、キャメロット3種、ピッケル、補助アックス、ヘルメット

・他:ヘッドランプ、替電池(単3×2)、トランシーバー、雪崩ビーコン、スコップ(レッドバット)、ナイフ、武器、レインウェア、スパッツ、救急セット(テープ、絆創膏、消毒薬、ウェットティッシュ)、ゴム手袋、のびる手袋、フリース手袋、耳あて、サングラス、日焼け止め、カメラ、フィルム×2、携帯電話、財布、ゴミ袋、水筒