「タイム/タイムレス/ノー・タイム」 ウォルター・デ・マリア
地中美術館
2005.8

美しく穏やかな瀬戸内海に浮かぶ小島。直島。
香川県にありますが、岡山県の宇野港からの方が近く
そこから20分程の船旅の後に上陸した時には、
これから始まる小さな旅への期待で降り立った全員が高揚していました。

ここを訪れる人の中には、島の南端に建てられた
安藤忠雄設計の地中美術館を見ることが目的の人も多いでしょう。
光が張り巡らされたその美しい建物の中に収まった3人の作家のひとりが
ウォルター・デ・マリアです。
直島では2000年に「見えて/見えず 知って/知れず」という作品も作っています。

通常の展覧会のように始めから作られた箱の中に作品を収めるのではなく、
この部屋を作る段階で、設計の安藤と綿密な打ち合わせをしただけあって
部屋の隅々までマリアの意図が行き渡っています。
入り口に立つと、長方形の部屋の前からずっと奥まで伸びている
幅いっぱいの階段と、その途中に置かれた巨大な球体に圧倒され
一瞬立ちすくんだ後、まるで祭壇に導かれるように粛々と歩を進めていきます。
鏡のように完璧に磨かれた黒い花崗岩の球体には
自分とこの部屋の姿がはっきりと、歪んで映っていました。
長方形の天窓から差し込む光は、黒い球体の真上に落ち
ちょうど日時計のように、その時々の時間の表情を映し出しています。

「タイム/タイムレス/ノー・タイム」
この部屋の中では空間が時間であり、時間が宇宙であり、
その宇宙に浮かぶ自分の小さな鼓動を感じ取ろうと、
マリア像の前で長い瞑想に耽るのです。
お堂の中で、あるいは教会の中で、静寂の中で、
まわりの雑念を払って自分の心と向き合い
自分の心に語りかけているあの平穏な心の状態を、
ここでも同じように反芻しているのでしょう。

肌を射るほどではない、しかしまだ力強い夏の日差しが
部屋を通る頃には少しだけ柔らかくなって、
その幸せな光の粒子に全身を優しく包まれながら
時が過ぎるのを忘れてしまうのです。

この他にクロード・モネとジェームズ・タレルの部屋がありますが、
どの部屋も違う重さの光に満ち溢れていて
しばらくの間でも、この建物の外とは全く違う空気を吸っていられることに
深い満足を覚えることができるでしょう。




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