東山魁夷。
日本人で最も有名な画家のひとり。
それにもかかわらず
実際に彼の絵を見たことはありませんでした。
ルノアールやモネやピカソやゴッホは何度も目にしているというのに。
そして
またもやられてしまったのです。
私が本の中で知っている彼の絵とは全く別のものが
そこにはありました。
だから本物を見に行くのを止められないんですね。
これが第一人者の絵というものなのだと、
ドンと目の前に突き付けられて
作品の前から足が動かないのです。
周りをみると、私のような人があちこちに。
他の展覧会と少し雰囲気が違うなと思ったのは
1枚の絵の前に立っている時間が、皆長いからでしょうか。
自分が絵にすっぽり取り込まれてしまったかのような錯覚を起こすのです。
彼の描く森の中に入っていき、湖を歩き、岩場を眺め、波飛沫を浴びる。
彼のテーマでもある白い馬といい、色味といい
現実離れしたところもあるのにも関わらず、
どうしてそう思えてしまうのでしょう。
幻想の世界でさえ本物のように見えてしまいます。
今回、年に3日間しか一般公開されない
あの有名な「唐招提寺障壁画 濤声」を見る事ができたのは幸運でした。
親切に長椅子が絵の前に置いてあるのでそこに座ったのですが
ここでもやはり動くことができません。
実際に海に行って、そこがとても綺麗な所だったり凄い所だったりしたら
ずっと見ていたくなりますよね。
それと全く同じ事をこの絵の前では体験できるのです。
本当に波が岩に当って砕ける音が聞こえてくるようです。
それは視界の端から端まである、この大きさのせいもあるでしょうが
彼の筆が描き出す波が、自然の持つ圧倒的な力強さを
忠実に再現してくれているからでしょう。
この絵に費やされた 10年の歳月を感じながら、
しばらくただこの巨大な絵を眺めていました。
遠いのが残念ですが、もし長野に行く機会があったら
「信濃美術館 東山魁夷館」にも行ってみたいと思いました。