コンセプトは、なるべく安く、出来ればコンパクトにつくるということ。でもオペアンプ一発というのも味気ないですし、音的にもいまひとつです。それにディスクリートで作ったにしても余程高級なパーツを使わない限り余分にかかる費用は些細なものでしょう。むしろ問題は外装にかかる金額の方です。
 今回のアンプは、メインシステムの大きなスピーカーを鳴らす訳ではなく、サブ、或いはサード、或いは茶の間のBGM、子供のピアノのお稽古CDを鳴らすアンプです。高級である必要もなく、邪魔になるほどの大きさも必要ありません。アンプが自己主張するほど立派じゃなくてもよろしい。ただあまり見苦しいと困ります。

 

 上が今まで使っていたヘッドフォンアンプ。単三8本で駆動。
 下が今回製作したヘッドフォンアンプ。単三16本で±12V。最小±3Vでも動きます。


 コンストラクション

 自作アンプの部品でお金がかかるもののひとつにケースがあります。パワーアンプではトランスと電解コンデンサ、放熱器あたりもお金がかかりますが、これらはないわけにはいきません。しかしケースは直接音に関わるものではありませんからこれを何とかしたい、という気持ちがありました。
 家族の買い物につき合っていて丁度良さそうなアクリルの名刺ケースが見つかりました。値段は800円。4mm厚のアクリル板を使っていますので強度的にも問題はないと思います。

 アクリルケースを使用するメリットと兎に角安くあげるコンセプトから、プリアンプは電池駆動としました。音の鮮度を優先して結局乾電池は計16本を使い、±12Vで使っています。電圧を変えて調整してみると7〜8Vあたりから音の出方が変わり、押し出しとDレンジが違ってきます。結局電池ケースのひとつは逆さまというアクロバティックな配置になってしまいました。

 このアンプは通常のプリアンプとして使用する他にヘッドフォンアンプとしても使えるようなっています。と言うのは、悲しいことに我が家はスピーカーを気兼ねなく鳴らす環境になく、ほとんどヘッドフォンにお世話になっている現状だからです。通常はヘッドフォンアンプとして、たまの休みに小スピーカーでこぢんまり鳴らすという、いかにも小市民的な使い方が前提です。
 実はこうした悲しい状況は子供が出来てから顕著になり、今ではヘッドフォンアンプを2台使っています。これが3代目です。1台はチャンネルディヴァイダーに組み込んだトランス式の小出力パワーアンプで、外部入力をプリアンプで切り替えて聴く時に使っています。もう1台は専用のCDプレーヤーからアンプを介し、直接ヘッドフォンを駆動するもので、回路の基本はMJ誌95年6月の金田式プリアンプのものですが手持ちの部品の関係から若干アレンジしてあります。(写真上のアンプ)

 今回のプリアンプはこれとほぼ同じ回路で作りました。ただし今回は原回路のNFB内のボリュームを止め、通常の入力側に入れました。というのは原回路ではゲインが大きすぎて通常聴くレベルに調整できないからです。
 出力は32Ωで400〜500mW程度でしょう。ヘッドフォンアンプは大体100mW位あれば十分だそうですから問題はないでしょう。ゲインは32Ωで6-8dB程度かと思います。DCドリフトは±2mVでほぼ安定しています。








 アクリル箱の加工

 さて、このアクリルケースに基板等を入れるとなると、通常のように底板に直接取り付けるというわけにはいかなくなります。というのは箱にすっぽり納める形になりますので、半田付けや調整等が非常に難しくなります。そこで、アクリルのサブシャーシにある程度組んでしまってから最後にケースに組み込む手順とします。入出力はコネクタを使いました。
 基板用のパーツの入手と、フロントの位置決めがうまくいけば、下のシャーシをフロントぎりぎりまで出してヘッドフォンジャックとパワースイッチを基板に乗せることが出来(勿論この場合、基板用のパーツでなければならない)、ワイヤリングを少なくできます。メーカー製では迷わずこの形になるでしょう。ワイヤリングなど製造過程で手間がかかる作業をなるべく避ける設計をするからです。今回は手間を惜しむ必要はないのですが、何しろ狭いケースですから、ケースに収めた後の作業をなるべく避けたいのが本音ですけれどこれは部品が入手できませんでした。

 アクリルの加工は今回初めてでした。実際アクリルを切断したり加工するのはかなり面倒な作業です。切断はカッターで切れ目を入れて折るのですが、普通のカッターではなかなかうまくいかない。専用のカッターが必要です。また、ドリルで穴を空けるにも金工用のドリル刃では引っかかりが良すぎてアクリルが欠けることがあります。実際8mm径の穴を空けようとして引っかかりケースが割れた・・・。結局使い古しの切れ味の落ちた刃がよいようです。

 ケースの中はアクリルのシャーシを2階建てにします。ひとつは上段の電池ケースを乗せるシャーシ、もうひとつはアンプ基板のためのシャーシです。アクリル板はどこのホームセンターでも容易に手に入る2mm厚のもの。


 電池ケース

 内部が透けて見えるスケルトンとなると、出来れば市販の電池ケースを使いたくはありません。そもそも電池のケースなどは選べるほど品種がありませんし、まして見栄えを気にしてデザインされた物などありませんから。と言うことで、アクリルで工作して、厚めの両面テープと銅箔で接点を作りましたが非常に不安定。しかし金田式高音質の手段、半田付けという荒技はこの場合使えません。市販の電池ケースの接点を見てみると、プラスチックに金属プレートをかしめてあるだけですから、転用は無理そう。仕方なく普通の電池ケースに落ち着いてしまいました。出来ればお金をかけないでここをなんとかしたいですね。


 ツマミ、スイッチ等

 アンプのパーツの中で経年劣化が激しいのは接点関係でしょう。家庭で通常の使い方をしている場合、内部の部品の劣化でアンプがだめになるということはまずありません。少なくとも自宅の10台ほどのアンプは10年以上経っても(故障させたことはありますが)自ら故障は例はありません。しかし、接点の劣化は避けがたいものです。特にボリュームとロータリースイッチ。抵抗を多数組み合わせて作るボリュームも同様に接点劣化は避けられません。ボリュームもアッテネータも高級な製品はそれなりに長寿命なのでしょうが、これらは異常に高価です。経験から言いますとそれほど高価でなくとも良い製品はありますし、同じ価格帯でもメーカーによる違いが結構あるような気がします。
 ボリュームは別として、私は今のところロータリースイッチをなるべく使わないようにしています。信頼性から言えば単純なトグルスイッチの方が遙かに上ですから。永くトラブルなしで使えることを前提とすれば、アンプとしての機能を限定しても信頼性をとる方が大事でしょう。様々な機能を「使い勝手」というのは、メーカーが宣伝に使うために複雑化する方便であって、実使用では百害あって一利くらいしかありません。高価な機器もあちこちトラブルが多いのではゆっくり音楽を聴けませんものね。私が自作を始めたのも(高価な機器は到底手が出ませんでしたが)なるべくトラブルがないような機器を作ること、そしてトラブルがあった時も(メーカーに高い修理費を払わず)なんとか自分で対処できることが魅力だったからです。

 ツマミはアンプの顔の重要な構成部品です。ただし、メーカー品のような格好の良いパーツはまず手に入りません。尚かつ、ここ十数年来このツマミという部品には私が知る限りほとんど新製品(と言うべきか?)が出ていません。進化して性能が上がるという性質の部品ではないし、何より単品の需要は極めて少ないからです。(メーカー品のジャンク品を買って転用するという手もありますが、バランスは難しいですね)

 実は今回、ケースがアクリルと言うこともあって、初めツマミもアクリル製にしようかと思いました。しかしシャフトへの固定をどうするか、という問題があります。接着剤で固定することも可能ですが、万が一パーツ交換となった場合に困ります。ということで、昔から使っている梨地アルミの物を使います。

 さて、次にフロントフェイスの配置デザインについてです。これについては人様々ですね。完全に好みですから。ただし、今回のアンプのフロント面は100mm(W)×70mm(H)しかありません。当初配置しようと思っていたのは、電源スイッチ、ボリューム、2系統入力切替スイッチ、プリとヘッドフォン出力の切替スイッチ、ヘッドフォン出力ジャック、電源用のLED。・・・到底全ては無理です。そこでまず入力切替を諦め、電源スイッチ、ボリューム、ヘッドフォン出力ジャックの3つをフロントに配置します。
 入力端子をフロントに持ってくる方法もあります。今使っているヘッドフォンアンプは入出力をフロントにもってきて、その代わり電源スイッチは背面についています。これは小型だからできます。プリとヘッドフォン出力の切替えはヘッドフォンジャックに2回路のスイッチを連動させるものがありましたのでこれを使いました。
 LEDは? 考えてみると、ケースが透明なのだからLEDをフロントに出す必要はありません。電源が入っていることを知らせるためですから、外から確認できるどこかで光っていてくれれば用はたせます。ならば一層、クリスマスツリーの如く何色かで点滅させてはどうかな・・・ちょっと派手すぎますか。


 ボリューム

 24径くらいの物が丁度良いと思いますけれど、これのステレオ用の2連のものは現在ほとんど手に入らないようです。ここは仕方なく小型の汎用品で間に合わせました。50kΩ、Aカーブ。


 ヘッドフォンジャック

 このジャックはアース端子を含めると全部で9端子あります。上述したとおり、左右チャンネルの端子以外に3Pのスイッチが2回路入っているからです。このスイッチは、ヘッドフォンプラグが入っているときといないときで切り替わるようになっていて、例えば電源スイッチをこれに当てれば、プラグの抜き差しで電源のON-OFF出来ます。今回は、プリ出力とヘッドフォン出力をこのスイッチを使って切り替えることにしました。プリアウトを使うときにヘッドフォンの負荷が繋がっているのはアンプにとって酷ですから。


 ピンジャック

 これはプラスチックの板に付いた物ではなく、1個づつバラになっている物。ケースがアクリルだから絶縁されている必要もありません。見栄えから金メッキの物を使いますが高級品である必要はありません。赤白か赤黒の1ペアを2組。


 トランジスタ

 初段は2SK30ATM。ランクはGR。私はストックの全てIdssを測り付箋を貼って使いやすいようにしています。(トランジスタもペア組で買った物の他は全て簡易測定して記入しておきます。)いちいち回路を組んでいるときに測定するのは大変ですし、ペアを揃えるのも楽です。また数値により使えたり使えなかったりする場合もあります。
 因みにIdssランクは東芝セミコンダクター社のHPによると、R:0.3-0.75 O;0.6-1.4 Y:12-3.0 GR:2.6-6.5(mA)。ここ

 実際にIdssを測ってみますと、手持ちの物のばらつきは 2.8mA〜4.2mAですが、同時期に購入したもの(同一ロットと考えても良さそう)は大体揃っていてほとんど選別しなくてもよいくらいです。選別してペアリングをとった物が結構な値段で売られていますが、ある程度まとめて買えばこうしたものを買う必要はないと思います。

 定電流回路のFETは同じ2SK30A。これは手持ちからIdssが3.3mAの物を探しました。流したい電流とIdssが合えば抵抗をひとつ省略できます。
 尚、ここに使うFETは一応終段の温度補償としても使うので負の温度特性を持っていなければなりません。一般に大きな電流域で使う場合(Rsが小さい場合、つまりIdssをあまり絞らない時)はQポイントより上での使い方になりますので問題がないのでしょうが、Rsを大きな値としなければならない場合は注意が必要でしょう。gmが高いものはQポイントも高い位置にあるようで、規格表によるとIdss=11mA(25度)の2SK117は6mAあたりにあります。もしこのFETを使ってRsで3.3mAまで落とすと正の温度特性となってしまいます。たしか2SK30Aは0.2-3mAあたりですから許容範囲は広いですね。

 2段目のPNPトランジスタも極端な話何でも良いです。高出力のパワーアンプであれば耐圧(この回路の場合、マイナス側に電流を供給するトランジスタはB-C間の耐圧をクリアできるように)と損失を考慮しなければなりませんが、このアンプでは問題になりません。ここではどこでも容易に手に入る2SA1015を使います。

 終段は2SC3421(120V,1A,1.5W)。現在使っているヘッドフォンアンプは2SC959を使っていますが、今回は他に手持ちのあるトランジスタを使ってみました。2SC959は既に製造中止ですし、売っていても高価です。2SC3421は1個60-70円です。


 コンデンサ

 電池から基板の間に電解コンデンサ(Silmic II)が入っています。整流用というわけではありませんが、電池の出力にコンデンサをかませるとパワーが出るという話があるので試してみました。常に一定の電流がチャージされているわけですから、電源の余裕は出来るはずです。プリとして使う場合にはあまり効用がないかも知れませんが、ヘッドフォンアンプとして使う時少しは効果があるかも。ただしこの2200µFという容量が適切であるかどうかは全くわかりません。
 尚、このコンデンサのおかげなのか、電源スイッチは入れるときに僅かにプチとノイズが出ますけれど切るときはでません。
 0.22µFはメタライズドフィルムコンデンサー(ポリエステル)。


 抵抗

 全て金属皮膜抵抗の1/4W形。今まで1/2Wを使うことが多かったのですが、最近は小型のものの需要が多いようで1/2W形は少なくなってきているようです。1/4Wでも電力で問題になるところはないでしょう。


 LED

 アンプ内部が稼働中に光るというのもなかなかいいですね。パワーアンプの方は赤のLEDを使うので、プリは今話題の青を使ってみることにしました。この青色LEDは最近開発されたもので、まだ少々高価ですが、電気製品にも徐々に使われ始めているようです。見慣れた赤や緑に比べると神秘的な雰囲気ですね。

 さて、このプリアンプは電池を使っているので、電源が入っているという表示の他にバッテリーの消耗度を示す必要があります。動かなくなる少し手前でLEDが点かなくなるようにしなければなりません。
 青色LEDを点灯させる場合、およそ3.5V以上かける必要があるとされています(赤色は1.9〜2.0V)が、実測すると2V強までなんとか点いているようですから、5.6Vのツェナーダイオードを入れ、約8Vで消えるようにしました。


 

 製作の最後に基板の前後を逆にしたためLEDが奥まった位置になってしまいました。ボリュームから出ている入力コードが余ってしまっているのもこのせい。

 尚、ボリュームはそのまま取り付けるとハムを拾うので、今回はアースに落とした銅線を挟みナットで締め付けています。
2003.10.7


 今まで使っていたヘッドフォンアンプもアクリルケースに載せ替えました。基本の回路は上のものと同じですが、A1015とC3421の代わりにA606とC959を使ってあります。電源電圧を高めにとるとC959はかなり熱くなりますので、±6Vとし、アイドリングも抑えてあります。上記アンプに比べて出力に出るDC電圧がかなり変動します。安定度が悪いのはトランジスタのせいかもしれませんね。
 音の傾向も若干違うようです。
2003.12.31