過去のプリアンプの中で最も有名なのはこのModel 7と呼ばれるアンプではないかと思います。真空管のアンプは現在でも根強い人気がありますが、中でもこのアンプは様々にリファインされて生き続けています。
 現在発表されているMARANTZ型アンプのイコライザー回路はほとんどRIAAだけです。通常レコードを聴く場合はこれで不都合はないのですが、#7が世に出たのは1958年頃、ステレオレコードがやっと出始めた頃でモノラルが普通、なおSPレコードも多く聞かれていた時代でした。このアンプのオリジナルには3つのレコード・イコライザー・ポジションがあったようです(私はこのアンプの現物を見たことも聞いたこともありませんが、ネット上のいくつものサイトに回路図が掲載されています)。

 イコライザーはNF型で、RIAA、Old-Columbia、78用の3つに対応しています。回路図ではひとつのスイッチで複数の素子を共用して切り替えるようになっているため、多少複雑な回路になっています。今日、これを再現しようとしてもこの切替スイッチと同様のものは手に入らないと思いますので、ロータリー・スイッチあたりで代替しなければなりません。
 LPカーブのイコライザー素子を見ると高域時定数は113µS位、Rolloff周波数で言うと1400Hzあたりとなるようで、一般に100µS-1590Hzと言われている定数より少し低くなっているようです。以前に時定数から計算してグラフを作った時も100µSでは10kHzで-16dBまで落ちませんでした。Turnoverも計算によると370µS位で、高域の定数に伴って低めです。ただ、これはパーツの精度や数値の規格によって多少とも変動するものなのでそれほど神経質にならなくてもよいかもしれません。

 下図は回路図を元にイコライザー素子をだけを抜き出して、簡易回路でシミュレーションしたものです。(イコライザー素子のみを使い、カップリング・コンデンサーやゲイン等の部分は考慮していませんので、多分原機の低域はすこし丸まっていると思います)
curve 100Hz 1kHz 10kHz
RIAA +13.3 0 -14
Columbia +12 0 -16.3
78 +13.5 0 -6.3

 78カーブの最低域はRIAAと共用していますので、下図では緑線だけになっている100Hz以下には実はRIAAの赤線が重なっています(表の100HzでのRIAAと78カーブとのゲインが0.2dB違うのは、1kHzのゲインがわずかに違うために生じた差です)。高域10kHzの減衰は-6dB位で、当時の米国のColumbiaやVictorのSPカーブに近いと思います。

 このイコライザー・カーブの選択は、恐らく当時のアメリカの市場を考慮したもので、2大レコードレーベルのRCA-VictorとColumbiaのレコードを再生するためのものであったのでしょう。また低域高域ともにトーンコントロールがありますので、他のカーブにも対応できると思われます。
 Model 7のSPカーブは1種類だけですが、1951年頃(RIAAカーブ制定前)に作られたMarantzの最初のプリアンプであるConsollete や後のModel 1の回路図を見ると、高域6種、低域6種(低域側はこれまた複雑なスイッチを使って)のポジションを切り替えるようになっていたようです。





 これもWEB上に掲載されている回路図を参考にしてカーブを描いてみたものです。
 SV-1はモノラルのプリアンプですから、時期的には50年代前半の頃の製品でしょうか。イコライザーはCR型で、78のSPカーブを含め、4つのポジションを持っていたようです。このうちLPに関係する3つのポジションでのカーブをシミュレートしたものが下の図です。自社のOrthophonicカーブと、恐らくプレスを受け持っていたレーベルのカーブであるAES、そして米国でのもうひとつの標準であるLP/Colカーブに対応しています。


 下図はRCA SV-1のOrthophonicポジションのカーブをシミュレートしてRIAA定数の場合と比較したものです。低域はシミュレートした簡易回路で違ってきますので無視していただくとして、中域から高域にかけても非常に近いカーブであることがわかります。このOrthophonicというポジションがNew Orthophonic(RIAA)であると言ってもいいくらいです。このプリアンプがいつ頃の時代のものかわかりませんが、少なくとも自社のレーベルではOrthophonicとNew Orthophonicを明確に分けて表示していたことを考えると、機器でも分けて表示していたのではないでしょうか。であれば、RCAのOrthophonicとNew Oryhophonic(RIAA)は、極端に言ってしまえばせいぜい誤差程度の違いしかなかったのではないかと思われます。Orthophonicは計算してみるとTurnoverがRIAAより若干高めで550Hz、Rolloffも2200Hzくらいでしょうか。



 私は真空管アンプには疎いので、LEAKという名前を聞いたことはありますけれどどういうアンプなのかは全くわかりません。回路図では、NF型のイコライザーで、4つのポジションを持っています。SP用のポジション以外は下記のように3つのポジションを備えています。他のアンプとは対応するカーブの割り当てが違います。このあたりは対象となるレコードと設計の考え方の違いからきているようで興味深いところです。
 なお、低域は実機ではこれほど伸びていないと思います。真空管アンプは特に両端帯域を制限する要素が多いので、イコライザー素子のみのグラフとして参考に止めてください。また、1kHzはゲインを45dB程度に仮においているもので、原機のゲインではありません。


AES & RCA Orthophonic
 計算上はTurnover 352µS、Rolloff 70µSくらいだと思います。周波数で言いますと450Hz、2260Hzあたりで、丁度RIAAとAESの中間くらいになります。

COL & FFRR
 同様にTurnover 400µS-470Hz、Rolloff 117µS-1360Hz。数値上はColカーブより若干低めですが、TurnoverとRolloffの時定数間隔が狭いのでうねりが抑えられており、カーブの形状は似ています。ffrrもこのポジションで兼用することとなっていますが、さてどうでしょうか。

NARTB & HMV
 同様にTurnover 214µS-740Hz、Rolloff 82µS-1930Hzあたり。このアンプが対象としているNARTBというカーブがどのようなものであったのか分かりませんが、HMVに対応しているとなると、EMI系の33CXやALPを対象としたカーブであると思われます。この曲線はうねりが少なく、直線的に下降するカーブです。低域側はNABやLPカーブとほぼ同一と言っても良いでしょうが、Turnoverが非常に高い位置にあります。このため、500Hz以下のゲインが大きくなっています。このうねりの少ないカーブはColやNABカーブに似ています。
 下図はNABカーブを並べて比較したものです(ゲインは関係ありません)。低域は丸まりますのでほぼ同様のカーブと言って差し支えないように思います。少なくとも音楽を聴く分には区別はつかないでしょう。実際、EMI系のレコードはNABかLP/Colに分類されていることが多いのも頷けます。