これは再生RIAAを上下逆にしたもの、つまりレコードをカッティングするときのカーブです。差動入力のNF型イコライザーの場合、このカーブを入力の他方に入れてゲインを相殺し、結果として再生RIAAのカーブを得ているわけです。上図は、このNF素子の出力側に入力して入力側(初段差動入力の一方)に現れる信号をシミュレーションしたものです。

 前頁でモノラルLP時代の代表的なカーブを作ってみましたが、RIAAカーブとその他のカーブにどのくらいの差があるのかを見てみたいと思います。
 まず、フラットな信号をNAB他のカッティング時のカーブでイコライズしたあと、RIAA再生カーブで再生します。この時、原信号とどのくらい差異があるか、というシミュレーションです。逆RIAAでイコライズしたものをRIAAで再生すれば当然フラットになります。ではNABカーブで録音されたレコードをRIAAで再生した場合、どのように聞こえるでしょうか。これを示したのが以下のグラフです。赤い曲線は、入力信号(0dBの青い線)に対しての差異を表しています。0dBに対し、上側にあれば強調されて聞こえていることとなり、下側にあれば減衰していることとなります。

注意:
 下図では1kHzで 0dBになるようゲインを調整してあります。NFBの素子は前頁の定数を使ってありますので、若干の誤差があります。少なくとも1dB以下のオーダーでは正確にならないと思いますのでご容赦ください。

 dB値と実際の電圧値の換算はおよそ以下の通りです。
 
 db 0 1 2 3 4 5 6 10 20
 倍  1.00 1.12 1.26 1.41 1.58 1.78 2.00 3.16 10.0

 これはNABカーブでカッティングされたレコードをRIAAカーブで再生した場合の偏差です。高域が強調され、中低域が薄くなります。




 これはLP/ColumbiaカーブでカッティングされたレコードをRIAAカーブで再生した場合の偏差です。高域時定数はNABと同じですので同じ曲線を描いています。低域カーブもNABとほぼ同様の形ですが、最低域が少し強めに出ることがわかります。


 これはDecca-ffrrカーブでカッティングされたレコードをRIAAカーブで再生した場合の偏差です。通常の再生イコライザーカーブに似た形になっています。このカーブは、RIAAに比べ全体にイコライズが浅めであるためです。高域が減少して、低域が強めに出ると思います。




 AESカーブでカッティングされたレコードをRIAAカーブで再生した場合の偏差です。高域が減少して中低域が少し盛り上がっています。60Hz以下が減少しているのが特徴ですが、この辺はカッティングの段階でもそれほど大きなレベルで音が入っている領域ではないので、どのくらい差がでてくるかわかりません。


 
 これらの偏差は、前頁でシミュレートした各カーブの差分をわかりやすくグラフ化しただけのものですが、実際に元の音を再現しようとするときには役に立つだろうと思います。これらのカーブをフラットにするために再度フィルターを通すことは可能ではありますが、そのための複雑なフィルターを作るのは現実的ではありません。むしろ逆RIAAを通して一度フラットに戻してからそれぞれのカーブでイコライズした方が良いでしょう。ただ、はじめからそれぞれの再生カーブを持つイコライザーを用意したほうがはるかに楽です。

 RIAA以外の再生音を体験する簡単な方法としては、グラフィックイコライザーを使って補正し、フラットに近い周波数特性を得ることです。上図で見る限り、+-6dB程度を調整すればほぼフラットに近い特性を得ることができそうです。0dBより上側部分は元音源より強調されていますからその分下げてやり、下側部分は上げてやります。(NABとLP/Colでは一番低いところを基準として、他をそれぞれ上げてやることも可能です)
 10バンドのイコライザー(1kHzを中心としてオクターブ毎に10分割してあるのでわかりやすい)を使ったNABカーブの調整を例としますと、31.5Hz:-1.5dB、63Hz:-0.5dB、125Hz:+0.5dB、250Hz:+1dB、500Hz:0.5dB、1kHz:0dB、2kHz:+1dB、4kHz:+1.5dB、8kHz:+2dB、16kHz:+2dBでほぼフラットになりそうです。
 しかし、実際にグラフィックイコライザーで調整する段になりますと1dB上げ下げするのは結構微妙な作業となります。調整する範囲は上下6dBもあれば十分ですが、ほとんどのグラフィックイコライザーはかなり広い調整範囲を持っていますので、逆に微妙な調整をするのには向いていないのです。調整範囲が狭くても1dB単位で調整できるグラフィックイコライザーを使えば実用になると思います。音は結構変化します。


2004.8