米Columbia

 初めてLPをリリースしたのは米Columbiaレーベルでした。1948年のことです。
 イコライザーカーブは下図のようにRIAAに比べて低域が若干浅く、高域の減衰が大きくなっています。10kHzでおよそ-16dBです。NABカーブとは高域が同じで低域の特性が少し違うだけです。LPカーブと呼ばれることもあります。Long Playing、初期Columbiaのジャケットには"LP"のロゴがあしらわれています。




 RCA-Victorを除くと、アメリカでのRIAAカーブへの移行は1954年から1955年頃ということになるでしょう(恐らくメジャー・レーベルは1954年の早い時期、ほぼ年初めからだと思われる)。Columbiaの移行もこの時期だと思いますが、レーベルにもジャケットにもイコライザーカーブについては何も書かれていませんし、RCA-Victorのように明示していたわけではないので、レコードを見てもわかりません。

 ご存知のとおり、クラシックの場合、Columbiaの12inchはML4000番台、10inchはML2000番台の青地に銀色の文字のレーベルです。WEB上の情報では、ML4895まで、ジャズ・ポピュラー系の赤レーベルはCL590までがColumbiaカーブだそうです。所謂六ツ目(6eyes)に移行したのは1955年頃ですから、この少し前の時期にRIAAへ移行したことになります。ML4000番台でも6eyesレーベルのものはRIAAということになります。


ML4269
(XLP1844/1D) (XLP1845/1A) 大文字

Dvorak:Sym.1(6)
E.Leinsdorf/Cleveland o.
フラット盤 Copylight,1950

 Columbia盤のマトリクスはXLPで始まる番号で管理されています。CLナンバーも同様で、全て通し番号が使われていたようです。刻印は大文字。
ML4362 (ML54362)
(XLP3705/1A) (XLP3706-1D) 大文字/小文字

Bliss:Checkmate
R.Irving/Royal Opera House o., Covent Garden
Meyerbeer:Les Patineurs Ballet (arr.Constant Lambert)
J.Hollingsworth/Royal Opera House o., Covent Garden
フラット盤

 これはML4000番台の番号なのですが、ご覧のように頭に「5」がついている番号です。どういう意味なのでしょうか。
ML4467
(XLP3967-3E) (XLP3968-3B/2) 小文字

Berlioz:Symphonie Fantastique
E.Ormandy/Philadelphia o. (50)
フラット盤

 下部分から"MICROGROOVE"の文字がなくなった後期のデザインのレーベル。Columbiaカーブ。
 壮年期のオーマンディの指揮、素晴らしいフィラデルフィア・サウンド。巷で言われるほど華やかではないと思いますけれど、弦の威力は凄まじいです。
ML4832
(XLP14343-1F) (XLP14344-1A) 小文字

Schubert:Quartet No.14 "Death and the Maiden
Budapest String Quartet
GG盤

 4000番台ですが、6つ目(6eyes)のグルーヴガードの盤です。このタイプは全てRIAAカーブでしょう。
国内盤
WL5009
(FXLP1470/1B Δ-F-6) (XLP1471/1B Δ12) 大文字

Beethoven:Symphony No.3 in E-flat major, op.55 "Eroica"
B.Walter/NYP.

 日本での初LPは1953年に日本Columbiaが発売しました。初めての盤はWL5001-2、ワルターの第九。勿論、米Columbia原盤です。
 右の盤もほぼ同時期のものと思われます。ジャケットは当時の米Columbiaと瓜二つで、紙質も同じではないでしょうか。裏面は全て英語で日本語表記がなく、日本Columbiaの表示もありません。違うのはレコード番号がML****からWL****となっているだけです。レーベルの色が多少濃い他はデザインも見てのとおりほとんど同じ。
 尚、このWLシリーズには英Columbia音源の録音が含まれていますが、マトリクスは英Columbiaと米Columbiaのものが混在しています。(例えば、リパッティとカラヤンのSchumannとGriegのピアノ協奏曲)日本Colunbiaは当初米Columbiaだけから音源の提供を受けていたと思われ、英Columbia音源のものでも米Columbia原盤を使っていたようです。しかし、1953年に英米Columbiaの提携が切れたことにより、英Columbia原盤は直接英国から取り寄せることとなったのだと思います。

 イコライザーカーブは、時期的に言うとRIAAではありません。Columbiaカーブで聞くと録音の古さを感じさせないしっかりとした音ですが、盤質は良くありません。



マトリクスの字体

 マトリクスの文字列は初期の大文字から後期の小文字へと変遷します。左の画像は大文字と小文字マトリクスの例で、初期のものは"XLP"と番号が別々に刻印されていますが、後期のものは一列に一体化されています。英Deccaのマトリクスの変化の仕方と同じです。


 これらの米ColumbiaレコードはLPの黎明期、揺籃期にあたるものですが、思った以上に良い音が入っていて驚いてしまいました。決してレンジは広くないのですが、後のML5000番台に比べても全く引けをとらず、むしろバランスや線の太さでは上ではないのかと思います。私がレコードを聴き始めた70年代には、盤質の悪さが嫌われて人気がなかった米国盤ですが、この時期の盤はしっかりしています。

 私にはこの青レーベルでいくつかわからないことがあります。まず、ブルーレーベルの4000番台のものに5の数字を付けた54000番台のものがあるのは、何を意味するものなのか。2つ目はマトリクスの表記の仕方。初期のものはXLP****のと表記されていますが、後期になるとx"Lp"****となります。番号部分は通し番号なので問題がないのですが、この変更は何のためなのでしょうか。ご存知の方がいらっしゃればご教授ください。



米Columbia以外のColumbia(或いはNAB)カーブ採用レーベルについて

 LP初期のアメリカでは小さなレーベルはレコードプレスを大手レーベルの工場に依頼していました。2大メジャーレーベルの米ColumbiaとRCA-Victorです。RCA-Victorは当初45回転レコードを普及させようと頑張っていましたから、LP初期からスタートしたマイナーレーベルはほとんど米Columbiaのプレスから始まったのではないでしょうか。
 米Columbiaは、請け負ったプレスのマスターを一元管理していたようです。つまりマトリクスが「XTV」で始まる原版管理番号で、レーベルを問わず通し番号であったようで、レーベルを問わず、このマトリクスから一義的にRIAA移行の前後を判断できるようです。何番からかと言うと、XTV20383、或いはXTV21700等々微妙に違う説があるのですが、どちらにしても1955年頃にはRIAAに移行したようです。

 米レーベルでこのXTVマトリクスを持つものは次のようレーベルがあります。
VOX・・・黒地に銀文字のほぼ全ての盤
WESTMINSTER・・・緑地または赤地の大半の盤(一部のRCA-VICTORマトリクス盤を除く)
URANIA・・・初期のオペラの黄色地の盤と赤地の月桂樹盤の一部、後期はRCA-VICTORマトリクス。有名なフルトヴェングラーのエロイカはRCA-VICTORのプレスで、時期的にはRIAAカーブ。
他に、VANGUARD、 BACH GUILD、 HAYDN SOCIETY、 Concert Hallの初期 等々。

 XTVマトリクスを持たないくてもレーベルデザインからColumbiaプレスではないかと思われるものがあります。これらは、マスター盤を作成して、プレス工場に持ち込んだものと考えられます。


 VOX

 VOXはLP初期からかなりの数のレコードを制作していましたが、特にその長時間収録の利点を積極的にアピールしていたレーベルでした。しかしながら、録音していたアーティストはほとんどヨーロッパの演奏家であり、アメリカ市場では今ひとつ知名度に欠けることがあったかもしれません。今日の日本でもいくつかの盤を除いてやや地味な印象ですね。
 アメリカ本国での販売のほか、かなり早い時期からヨーロッパ各国のレーベルとの提携があったようで、フランスではPatheが、英国ではDeccaが、ドイツではOrbisがリリースしていました。

 VOX盤はRIAA再生するとかなり高域が強く出るので長く聞いているとうるさく聞こえます。Westminsterほどではないですが、元々、高域にアクセントがある録音、カッティングです。ジャケット裏には通常、NABカーブでの再生を促す注意書きがあります。本来、NABカーブは低域の特性がColumbiaと違いますが、ここでの「NAB」は高域特性を指しているように思います。と言うのは、低域のゲインがやや大きいNABカーブで再生すると低域が強調されすぎるように聞こえるからです。

PL8070
(XTV19272-1G) (XTV19273-1E)

Beethoven:Sym.3
J.Horenstein/Pro Musica o. Vienna (53)
フラット盤
PL8040
(XTV19325-1E/1/K) (XTV19326-1G/1/K)

Bruckner:sym.9
J.Horenstein/Pro Musica o. Vienna (53)
フラット盤 外溝

 この盤は英プレス。Deccaモノラル期の外溝盤です。
 マトリクスは英DeccaのLXT番号で言えば小文字に当たるようです。英Deccaと同様マザーを示す数字とプレスを示すアルファベットの刻印があります。
 この録音は1953年で、XTVで始まるマトリクス番号は明らかにRIAA以前のものです。恐らくDeccaカーブではなく、Columbiaカーブ。
DL680
(M-1216-A) (M-1216-B)
A.Gabrieli:Motet and Missa 'Fater Peccavi'
A.Gabrieli:Motet 'Angelus Ad Pastores'
G.d'Alessi/Cho of the Capella di Treviso
(C)1962

 このVOX盤は60年代に出されたものです。手書きのマトリクスはXTVではなく、Mから始まる番号。末尾の-Aと-Bはサイドを示すものでエンジニア等の記号ではないようです。
(C)は1962年。しかし、ジャケットにはNAB再生の注意書きがあります。不思議です。1962年であれば当然ながらRIAAで録音されるのが当然なわけで、わざわざNABで録音するメリットがあったとは思えません(少なくとも米国では)。

 なお、この盤にはマトリクスともに「RVG」のスタンプによる刻印があります。調べてみるとこの時期のVOX盤に結構見つけることができます。この記号は、ブルーノートで有名なR.ヴァン・ゲルダーの手によるカッティングなのだそうです。ジャズ・コレクターの間ではこの刻印もレコードの価値の重要な要素となっているようですが、クラシックではあまり聞きません。VOXがこうしたエンジニアを使うことの意図は何だったのでしょうね。
VL6220
(XTLP11454/1B) (XTLP11455/1A)
Bach:Brandenburg con.5&6
O.Klemperer/Pro Musica CO. (46)

 これは艶ありの黒地に銀文字。銀の縁あり。オリジナルはPolydorのSP。マトリクスは通常のXTVで始まるものではなく、XTLPで始まる番号です。


 Westminster

 Westminster盤をRIAAで再生するとVOX盤以上に高域が強く、しばしば耳が痛くなるほどです。CDの時代になっても例えばシェルヘンの指揮した演奏などはかなりきつい高域が入っています。これはイコライザーカーブの違いだけでなく、レーベルの音作りによるものです。

 WestminsterのWL5000番台は初期の緑レーベル、赤地に流れ文字レーベル、赤地にダブルレターレーベルと変遷していきますが、恐らくこの末期あたりでRIAAへ移行したものと考えられます。XNまたはWXNナンバーの紺のレーベルは全てRIAA特性でしょう。

WL5067
(XTV14489-3A) (XTV14490-1F)

Bach:Brandenburg con.4 / Cantata No.152
K.Haas/London Baloque Ens.

 ハースがロンドン・バロックEns.を指揮した録音はEMI系のParlaphone-Odeonから出ていましたが、Westminsterにもかなりの数があるようです。時期的にはWestminster盤の方が早いと思います。

 この盤の番号から言うとオリジナルはグリーンレーベルですので、これは第2版となります。
WL5177
(XTV17841-1B) (XTV17842-2B)

Beethoven:Leonore ov. No.1-3 / Fidelio ov.
H.Scherchen/Vienna State Opera o.

 シェルヘンの録音は総じて高域がきついものが多いですが、その一因はイコライザーカーブによるものでしょう。ただし、イコライザーカーブを合わせても尚、高域にピークを持つ録音です。
WL5220
(XTV19587-3A) (XTV19588-3C)
Mendelssohn:Quartet in E flat major, op.12-1 /Quartet in D major, op.44-1
Curtis SQ


 Vangurd - Bach Guild

 Vanguardレーベルも初期にはXTVマトリクスを持っていますが、かなり早い時期にRCA-Victorプレスに移行したようです。
BG502
(H8-OP-9967-1A) (H8-OP-9968-1B)

Bach:Cantata No.34 & 56
J.Sternberg/VSO. L.Sydney(A) H.Cuenod(T) A.Pernerstorfer(Bs)

GG盤 これはRCA-Victorプレスです。RIAA表示はありませんが確実にRIAA。同じレコード番号のものでも初出のものはColumbiaプレスであったようです。

 Period

 PeriodレーベルはXTVマトリクスを持っていませんが、デザインから恐らくColumbiaプレス。

SPLP531
(SPLP531AX) (SPLP531F) (SPLP531B) (SPLP531E) (SPLP531C) (SPLP531D)

Mozart:La Finta Giardiniera K.196
M.Guillaume, G.Jenne, H.Plumacher, E.Junker-Giesen, A.Pfeifle, W.Hohmann, G.Neidlinger
R.Reinhardt/Ton-Studio Orchestra of Stuttgart

 緑地に銀色の縁のPeriodレーベル。緑を赤に代えた同じデザインがありますが、赤の方が古いそうです。
 LP初期のオペラなどの組物は、文字通りアルバムの形になっていて、厚い表紙の中にレコードを収める紙袋を綴じこんでありました。特にアメリカではこの形が多いようです。この盤も持ち歩くには適さない、重厚なアルバム型。

 Haydn Society

 Haydn SocietyレーベルはXTVマトリクスなのでColumbiaプレス。

HQS-13
(XTV15552/1A) (XTV15553/1A)

Haydn:SQ op.17-1 & 4
Schneider SQ

 フラット盤。かなり厚いレコードです。レーベルに1951年Perpignanで録音とあります。ここで第1ヴァイオリンを弾いているアレクサンダー・シュナイダーがカザルスを担ぎ出して始まったプラド音楽祭は1950年に始まりましたが、翌年の1951年だけ会場の関係でペルピニャンで開催されました。その時期に録音されたものだと思います。
 なお、カザルスが参加した一連の録音は当時の米Columbiaでリリースされました。