RCA-Victor

 RCA-VictorはLP初期にColumbiaの12inch-33回転レコードに対抗して7inch-45回転レコードに力を入れていました。日本で言う17cmEPです。しかし、RCA-Victorは当初、この"EP"という言い方はしていません。LPつまり"Long Play"とはSP="Standard Play"に対して長時間録音盤であるわけですが、EP="Extended Play"もまたより長時間の盤の意味です。では、何に対して長時間盤なのかと言うと、それまでの7inch-45回転盤に対してなのです。LPを一足早く市場に送り出した米ColumbiaはSPと同じサイズの中に長時間録音できるように33回転としたのに対し、RCA-VictorはSPの録音時間をそのままとし、サイズを7inchに縮めて45回転としました。ですから、初期のEPの面割りはSP盤と同じであったようです(SPも並売されていた)。しかし、コンパクトになったものの、収録時間の制限からクラシックの大曲などでは依然何枚ものセットものになってしまいます。これを解決するため、それまでより長い時間の再生を可能にしたものが"Extend Play"なのです。

 RCA-Victorは方針の違いでLPリリースこそColumbiaの後塵を拝しましたが、その後のレコード産業に果たした役割は極めて大きいといえるでしょう。
 最終的に世界のスタンダードとなったRIAAカーブは1954年に制定されたものでしたが、RCA-Victorは同じ特性を持つ「New Orthophonic」という当時のHI-FI録音技術を1952年頃から採用します。これは、大々的に宣伝されたようで、この技術を使ったレコードにはジャケットに表示があります。アメリカ市場ではColumbiaと2大勢力を形成し、クラシックの世界ではトスカニーニという人気、実力とも備える大指揮者を擁していたことがその後の発展に寄与したことは確かでしょう。宣伝の仕方も上手かったのかもしれません。LP初期にはColumbiaでプレスされていたアメリカでの中小レーベルも時代とともにRCA-Victorに移っていったのがその証拠になるでしょう。MercuryのLiving PresenceもRCA-Victorの技術が大きく寄与しているものと思われます。

 RCA-Victorが「New Orthophonic」、つまり「RIAA」に移行する前は、「Orthophonic」という若干違ったカーブで録音がされていました。しかし、この「Orthonic」カーブは、現在のRIAAカーブに近いようです。

 下図はRIAAとAES,Old-RCAのグラフを描いたものです。ただし、Old-RCAは低域の制限をRIAAと同様に3180µS、Turnoverを600Hz-265µS、Rolloffを2.5kHz、63.6µSとして作図しています(この定数自体は一例として示しています)。
 実はこの定数でそのまま作図しますと、Turnoverが600HzとRIAAの500Hzより高いので1kHz以下の曲線がやや右に寄るとともに、1kHzのゲインが0dBより少し上の位置にきます。言い換えると、低域はゲインが若干高めになるとともに、Rolloffが若干高め(AESと同じ定数)であるため、0dBとの交点が1kHzの右にずれます。このとき、高域ではAESカーブとほぼ重なり、低域はRIAAよりかなりゲインが高めになります。このカーブを下図では1kHzで0dbにあわせ他のカーブと比較しやすいようにゲインを下げました。結果、本来AESと重なっている高域のカーブはやや下の位置になり、低域はRIAAカーブに近づくカーブとなります。
 同様に、Rolloffを3kHzあたりにとるとしますと、高域はAESカーブに近くなります。

 また、Old-RCAカーブの定数は、Turnoverを800Hzにとる説があります。この場合、Rolloffは恐らく2.5kHzより少し上の3kHzあたりにとることになるでしょう。グラフに落とすと低域が少し持ち上がることになりますが、極端に違うカーブになるわけではありません。

 どちらにしても、低域高域ともRIAAより少しゲインが大きいカーブとなります。


 RCA-Victor

 OrthophonicカーブからNew Orthophonic(=RIAA)カーブへの移行は1952年頃と書きましたが、これは番号で言うとLM1700番台ということになるようです。レーベルデザインで言えばプラム地に金色、或いは銀色のレイアウトの盤。マトリクスはE2-***-****の標記が境になります。ジャケット、レーベルに「New Orthophonic」の表示がないもの。所謂、Shaded Dogと言われる影付き犬(ニッパー)はRIAA=New Orthophonicです。
LM1008
(D9-LRC-9000/15S) (D9-LRC-9001/22S)
Tchaikovsky:Symphony No.4
S.Koussevitzky/BSO.
フラット盤 マット調の地に銀文字。

レーベルの特徴から言うと、多少後のプレス。初出は金文字でしょう。当然New Orthophonic表示がありませんが、プレス技術は向上しているように思えます。RIAAカーブで十分高域は出ますが、Old RCA=Orthophonicで再生すると素晴らしい。上記に示したグラフではRIAAとOld RCAはほぼ同じすけれど、詳細に見れば、Old RCAは1kHzを中心とした中域が僅かに凹んでいます。これによって全体のバランスが取れているように思えます。

 クーセヴィツキーのこの演奏の真価は、是非、再生カーブを合わせて聴くべきです。
LM1025
(D9-LRC-9018/12S) (D9-LRC-9019/3S)
Brahms:Symphony No.3
S.Koussevitzky/BSO.
フラット盤 艶ありの地に銀文字。

Old-RCAカーブ、RIAAカーブだと高域が薄い。
LM1039
(E0-LRC-3810/4S) (E0-LRC3811/15S)
Beethoven:Piano Concerto No.1
A.Dorfmann(pf) A.Toscanini/NBCso. (45)
フラット盤 金文字
LM1172
(E1-LRC-113/1S) (E1-LRC-114/1S)
Sibelius:Symphony No.2
S.Koussevitzky/BSO. (50)
フラット盤 銀文字。

作曲者からも信頼の厚かったクーセヴィツキーによるSibeliusの2番。1950年、亡くなる前年の録音。
LM1725
(E2RP-4348/15S/5) (E2RP-4349/20S/A1)
Elgar:Enigma var.
Brahms:Haydn var.
A.Toscanini/NBCso. (51)
GG盤 SD盤

 所謂影付き犬(Shaded Dog)の盤。オリジナルは、上のLM1172のような銀文字の盤ですが、レーベルが変わり、スピンドルホールの上に "NEW ORTHOPHONIC" HIGH FIDELITY の文字が加わります。ジャケットのデザインは変わりませんが、やはり "NEW ORTHOPHONIC" HIGH FIDELITY RECORDING の文字が加わります。つまり、この盤はRIAAカーブで録音されているということです。
LM18 (10inch)
(E0-LRB-2010/5S)(E0-LRB-2011/1S)
Mendelssohn:Violin.Concerto
J.Heifetz(vn) T.Beecham/RPO. (49)
フラット盤

 LP初期の盤は文字が金色で、艶のある地のもの。Londonレーベルも同様ですが、後年の銀文字より品があります。Old-RCAカーブ。
WDM1147
(49-0100A/3S/A1C4C) (49-0100B/9S/A1B6A) (49-101A/11S/A1B4F) (49-101B/4S/A1B1B) (49-102A/S2/A1C2) (49-102B/4S/A1C1H) (49-103A/9S/A1H8B) (49-103B/3S/A3B3L)
Offenbach:Gaite Parisienne
A.Fiedler/Boston Pops o. (47)
7inch 4EP

 LPではLM-1001でリリースされている録音。フィードラーは同曲を54年(LSC-1817/LM-1817)、59年(LSC-2267/LM-2267)と矢継ぎ早に再録音しています。これはSPからLP、モノラルからステレオへの節目に当たり、その度に新しく録音していたことが分かります。
 なお、この時期の7inch、45rpmのレコード番号はSP盤と連動していて、音源もSP用をそのまま7inchに置き換えた形となっています(この盤のSPはDM1147)。しかしこの後、7inch盤の番号はLP盤と連動するようになります(LM1700番台以降)。
ERC-1852
(E4RH-1221-1S/A1) (E4RH-1226-1S/A1) (E4RH-1222-1S/A1) (E4RH-1225-1S/A1) (E4RH-1223-1S/A1) (E4RH-1224-1S/A3)
Franck:Symphony in D minor
G.Cantelli/NBC so. (54)
7inch 3EP

カラーのニッパー、ジャケットに"NEW ORTHOPHONIC"の表示あり。所謂EP仕様(Extended Play)の盤であり、1枚あたりの収録時間を多くとっています。EP仕様以前のモントゥーの同曲は5枚組ですが、これは3枚組。倍近くを収録できるようになりました。正確に言えば、上記の盤のようにSP盤をそのまま45RPMに移し変えたものはEP盤ではなく、長時間録音になったこれらの盤をEP盤といいます。
LHMV-1061
(E4RP-8019/3S) (E4RP-8020/4S)
Beethoven:violin Concerto
Y.Menuhin(vn) W.Furtwangler/PO.
GG盤

英HMVでALP1100で出ている録音。手持ちのALP1100のマトリクスは(2XEA373-7N/1/R) (2XEA374-5N/5/AO)ですが、LHMVにはこの表記がなく、新たにRCA-Victorが原盤を起こしたと思われます。

New Orthophonic

 New Orthophonicとは、イコライザーカーブだけを意味するものではなく、High Fidelity Recording技術の名称です。RCA-Victorの説明によれば、
"New Orthophonic" High Fidelity recording has these characteristics:
1. Ideal dynamic range plus clarity and briliance.
2. Complete frequency range
3. Contant fidelity from outside to inside of record
4. Improved quiet surface
更に再生には
For best reproduction, High Fidelity phonographs should be adjusted to the R.I.A.A. or "New Orthophonic" characteristic.
イコライザーカーブを合わせること。


 米レーベル AES系

AES(Audio Engineering Society)は1947年に設立された団体。


 米レーベルではRCA-VictorがプレスしていたものがAESカーブです。
米Decca、Capitol(P.8156以降はRIAA。DeccaプレスのCTL****にもP番号があるので確認できる。)、Concert Hall、Uraniaの一部(URLP7000番台のレコードはマトリックスを見るとRCAプレスであることが分かる。)、Westminsterの一部。

 MERCURY

  Mercuryは54年10月までのものがAESカーブであるという。初期のMG10000番台(12inch)とMG15000番台(10inch)の黒地レーベルとMG50000番台のOlympianシリーズの初期のもの(黒地及びマルーン地)、MG40000番台のGolden Lyreシリーズの初期のものがこの時期に当たりますが、確認できていません。Mercury盤は1954年頃にグルーヴガード盤に移行しているので、フラット盤についてはAESカーブである可能性が高い。
MERCURY

MG10111
(MG10111A) (MG10111B)

Rachmaninov:sym.1
J.Rachmilovich/Stockholm Rso.

フラット盤

 この盤はセンターホール横に書かれた文字から51〜52年頃のリリースだと思われます。フラット盤ではありますが軽い材質で、ビニールというよりプラスチックの質感です。柔軟性がほとんどありません。
 Mercuryは音質に定評がありますが、それは後年RCA-Victorの工場でプレスされたレコードで、自社工場でプレスされていた初期のものは話が別。これも決して質感が良いとは言えません。
仏Mercury
MLP7505
(YMG50025A MF3/C1/PARTX20263-1/M6-150254) (YMG50025B MF2/A2/PARTX20264-1/M6-150255)
Stravinsky:The Firebird
Debussy:3 Nocturnes
A.Drati/Minneapolis so.
フラット盤 Patheプレス
米MercuryのOlympianシリーズMG-50025の仏盤。50年代半ばの録音ですが、Living Presenceの名に恥じない極めて優秀なHi-Fi録音です。ドラティの指揮も後年と基本的には変わっておらず、全く古さを感じさせない素晴らしい演奏。
 原盤のMercury盤は時代的にAESとRIAAカーブの境目に当たるので判断は難しいですが、聴いた印象ではRIAAで不足はありません。
 マトリクスから推測するに、マザーの供給を受けてPatheがプレス。ジャケットの日付は10-55。