Webern:管弦楽のための5つの小品op.10

J.ホーレンシュタイン/デンマークRso.
72.3.15 Danmarks Radio Concert Hall, Copenhagen Stereo
Unicorn
NU1-75027(英LP)
Arlecchino
ARL A34

Arlecchino盤は64年の南西ドイツ放送での録音とありますけれど、Donald Clarke氏の CD Discographyによれば、これはコペンハーゲンでの演奏であるとのことです。Unicorn盤LPで聞き比べますと、確かに曲間の譜めくり音など一致しますのでこの演奏は1972年3月15日のものです。ただし、Unicornからは恐らくCD化されていないので、CDで聴こうと思えばArlecchino盤しかないでしょう。Barker氏のDiscographyでは音盤化されていない翌日3月16日のライヴも残されているようです。

 この曲は、非常に短い5つの曲から成ります。わずかな高まりを除いては終始弱音の世界で、片手間に聞いていますと曲が終わったことさえ気が付かないことがあるほどです。しかし、Webernの極端に切りつめられ研ぎ澄まされた音楽は、それに向かい合う聞き手を否応なしに集中させることも事実です。楽器の切れ切れのフレーズ、音色だけで作りあげられた音空間は今でも容易に近づきがたい独特の雰囲気を持っていて、ブーレーズの言を待つまでもなく、戦後の現代音楽が共通して持っていた音そのものの存在に対する信仰が、音の純度と先鋭化という点においてWebernを祖に持っていたことを深くうかがわせます。

 ホーレンシュタインの演奏は現代風のすっきりとした演奏ではありません。この曲の特徴は、空間と音色彩との対比、細密な音の増減、音が置かれる厳密な位置感覚(例えば画家のキャンバス構成に似た空間的感覚)と言ったものでしょうが、この演奏にはそうしたミクロ的要素は求められないでしょう。勿論演奏する環境にもよりますが、ホーレンシュタインの晩年のスタイルから考えれば、例えWebernの音楽であろうと、その裏にある種の思い入れを感じてしまいます。それが何か、と言われると困ってしまいますけれど、例えば2曲目のコーダや5曲目半ばのクライマックスに聞かれる音楽の勢いは、現代的な演奏のスマートさとはやはり違う感覚でしょう。