Ravel:ピアノ協奏曲ト長調

J.ホーレンシュタイン/コロンヌo. V.ペルルミュテール(pf)
55  Paris (Vox) Mono

CDによれば55年録音、56年リリース。Barker氏のDisco.では56年録音とある。左手の協奏曲も同じ。
Vox
CDX2 5507
Accord
201052

ペルルミュテールといえば、Ravelの数少ない弟子の一人であり、スペシャリストとして名高いピアニストです。また、ピアノの教師としても有名で、少し前までは、フランス留学の経験があるピアニストの経歴にはほとんどこの人の名前が載っていました。Ravelの演奏で評価の高いのは、何といってもM.ロンでしょうが、師事したピアニストである程度の音質でそれを確認できるのは、カサドシュとフェブリエとこのペルルミュテールあたりでしょう。ただ、ロザンタールの著書によると、Ravelは自作の演奏についてどうこうと指導したことはなかったそうです。ただし、この曲にはロンのピアノでRavelが指揮した34年の録音が仏Pathéにあるので、Ravelが意図した演奏というのはわかります。
 ペルルミュテールは1904年生まれですから、このCDのクレジットが正しいとすると50歳頃の演奏ということになります。データによると1951年にパリ音楽院の教授となっていますから、このポストについてからまもなくの頃の録音ということになります。
 このCDには2曲の協奏曲の他にピアノ・ソロの曲も収められています。ステレオ時代になってからほぼ全集に近い曲数をNimbusレーベルに録音していますが、残響過多の録音で、ペルルミュテールのピアノも淡白すぎる演奏だったような印象があります。それに比べると、ここでのピアノは適度に温度感もあり、レンジの狭いMono録音に目をつぶれば結構楽しめます。びっくりするような解釈はありませんが、大変オーソドックスな演奏と言えます。
協奏曲の演奏も特に気負うことなく、滋味あふれるピアノです。第2楽章の天国的に美しいAdadio assai も殊更情緒性を押し出すことはありませんし、両端楽章は適度にピアニスティックでありながらも、どちらかと言えば淡々とした弾きぶりがこの曲にふさわしく感じられます。
 一方、ホーレンシュタインのほうは、ドイツ系の音楽やTchaikovskyに見られるような力で押していく方向ではありませんが、かなり明確に楽器を鳴らしていて、この曲の演奏としては随分力強い演奏です。第1楽章の冒頭は、相当テンポが速くて、一部で縦の線があわなくなりそうなところがあります。ピアノが加わらないところでは概ね飛ばし気味で、緩急の差が大きい。第2楽章はピアノが主役なので、ペルルミュテールのテンポにあわせて伴奏していますが、終楽章は再びホーレンシュタイン主導のテンポに戻ります。この両端楽章では、ペルルミュテールのピアノもホーレンシュタインのテンポにあおられている感じです。結果的に、良い意味での緊張感ある演奏になっていて、ピアニスト側にしてみればどうかわかりませんが、ホーレンシュタインに関して言えば、良くも悪しくもこの人らしい演奏といえるでしょう。


Ravel:左手のためのピアノ協奏曲ニ長調

J.ホーレンシュタイン/コロンヌo. V.ペルルミュテール(pf)
55  Paris (Vox) Mono
Vox
CDX2 5507
Accord
201052

第一次世界大戦で右手を失ったP.ヴィトゲンシュタイン(哲学者で有名なL.ヴィトゲンシュタインの兄に当たる)のために書かれた傑作。このピアニストは、当時何人かの作曲家に左手のための作品を依頼していて、Prokofievの4番や、R.Straussのパレルゴン(家庭交響曲余録)などの作品がこの世に生まれるきっかけを作りました。しかし、ヴィトゲンシュタインはこの曲が気に入らなかったらしく、しばらくは勝手に手を加えて演奏していたようです。確かにト長調の協奏曲と比べればフランス的な明るさもなく、ジャズ風のイディオムを使った単一楽章の一風変わった構成は、ヴィトゲンシュタインの期待していた曲とは違っていたのでしょう。
演奏はピアニスト、伴奏とも上記の曲と同じスタイル。例えばフランソワ−クリュイタンス盤のような華麗で洒落た演奏とは違いますが、全体の力感が勝ったがっちりとしたオーケストラの上に、作為のないシンプルなピアノが乗っていくのも悪くはありません。少なくともホーレンシュタインにはこちらの曲の方が体質的にはあっているようです。
 コロンヌo.というのは、ラムルーo.と同じく特にステレオ期以前にはかなりの録音がありました。ラムルーo.の方は最近佐渡裕の指揮で再び脚光を浴びていますが、この2つのオーケストラはRavelの作品には深い関わりがあります。Pathéへの作曲者自身が指揮した「ボレロ」はラムルーo.を指揮したものでしたし、Piernéの指揮した「亡き王女のためのパヴァーヌ」はコロンヌo.でした。この録音でのコロンヌo.の音は、特に管楽器の音にフランスの香りが残っていて、Ravelの生きていた時代を思い起こさせます。