Panufnik:Tragic Overture/Autumn Music*/Heroic Overture/Nocturne*

J.ホーレンシュタイン/LSO. A.ピーブルス(pf)*
70.12.21-22 Walthamstow Assembly Hall, London (Unicorn) Stereo
Unicorn Kanchana
UKCD 2016
Panufnikは1914年ワルシャワ生まれのポーランド人作曲家、指揮者。ワルシャワ音楽院を卒業したあと、ウィーンでワインガルトナーのもと指揮法を学ぶ。その後もパリやロンドンで勉強したあと戦時中はナチ下の祖国に戻り愛国的な作品の作曲、演奏しました。戦後はクラコウpo.の指揮者(1945-46)、ワルシャワpo.の音楽監督(1946-47)を務めたほか、BPO.やフランス国立o.、LPO.等ヨーロッパの主要なオーケストラの指揮台に立ちました。1950年にはHoneggerとともにユネスコのInternational Music Councilの副議長に選ばれています。1954年になって政治的理由でポーランドを離れイギリスに落ち着きました。彼は作曲家としても有名ですが、指揮者としても自作を含め録音がありますし、1957年から59年にはバーミンガム市so.の音楽監督をでした。10曲の交響曲ほかの作品の録音がHyperionにあります。1991年ロンドンで没。

 悲劇的序曲 Tragic Overture は1942年に作曲され、1944年5月ワルシャワで自身の指揮で初演されましたが、スコアはその後の戦火で他の作品とともに消失しました。ここに聞けるのは戦後再構成されたもの(1955改訂版)。全体は4つの音からなる特徴的なリズムパターンの繰り返しがベースとなっており、その間に擬音的なパッセージが挿入された8分半ほどの曲(作曲者の説明によればパーカッションで表される爆撃音、トロンボーンのグリサンドによる飛行機のエンジン音、パーカッションの強奏によるマシンガン音などが入る)。それほど悲劇的には聞こえませんが、一度聴くとそのアイロニカルな軽いリズムが頭に残ります。
 秋の音楽 Autumn Music は1962年作曲、65年改訂、68年 1月16日パリで初演。このCDの中では唯一イギリスへ渡ってからの作品。ピアノとパーカッションが効果的に取り入れられた静謐な音楽です。ライナーには「非常に幸福な気分の中で、純粋に季節の詩的表現を意図した」とあります。
 英雄的序曲 Heroic Overture はヘルシンキオリンピックの祝典で1952年7月27日フィンランドRo.により初演。どこかで聴いたことのあるような映画音楽に似たパッセージが聴かれます。中間部はあまり祝祭的ではありません。これも大戦中の愛国的活動を反映しているものだといいます。
 夜想曲 Nocturne は1947年の作曲。自身の指揮で翌年パリで初演。静かな雰囲気から徐々に高揚していき、クライマックスを迎えてから再びはじめの静けさに戻ります。作曲家はこの曲について「私は戦争の時代の苦痛の記憶と同じくらい現在の現実から逃れようとしていた。私は自分自身のために一種の夜の光景を作り上げていた」と書いています。
 秋の音楽を除くと戦中から戦後のポーランド時代の作品で、何らかの形で戦争或いは祖国の危機に関連しているようです。そういう意味では、全体に暗い響きですが、節約された音で室内楽的な空間を作っています。

ホーレンシュタインの指揮は、比べる演奏がないので何とも言えませんが、良い意味で職人的な演奏だと思います。録音はあまり残っていませんが同時代的な音楽にも理解のあったこの指揮者の貴重な記録のひとつでしょう。

 ところで、このCDには、録音会場がWalthamstow Assembly Hall, Londonとあります。他のCDではWalthamstow Town Hall, Londonとなっていますが同一の場所でしょう。HPでのこのホールの紹介には、素晴らしい音響で、クラシック音楽のレコーディングにはイギリスでもトップランクのホールの一つ、とあります。コンサートでのキャパシティは1,150人、他にダンスホールとして、ディナー、結婚式会場としても紹介されています。
 ジャケットはマグリットの「大家族」。平和の象徴である鳩に明るい光が透けて見えています。