Beethoven:交響曲第3番変ホ長調op.55「英雄」 (1) J.ホーレンシュタイン/ウィーン・プロ・ムジカo. 53 (Vox) Mono (2) J.ホーレンシュタイン/南西ドイツRso. 57 (Vox) Stereo |
||||||||||||||||||||||||||||||||
(1) Vox PL8070(米LP) Vox 7816 |
(1) この曲はホーレンシュタインのVox録音では唯一2度録音された曲です。この録音のわずか4年後にStereoで再録音されました。Voxの録音はほとんどCD化されましたけれど、このウィーン・プロ・ムジカとの演奏だけは恐らくCD化されていないものです。 VOX録音はどちらかというと暗めの伸びきらない音の印象がありますが、この盤は幾分ライヴな録音で、明るめの派手な音に聞こえます。録音そのものはこの当時のVOXというレーベルを考慮すれば悪くないのでしょうけれど、音質自体はかなり刺激的に響いて聴きづらい。強音時の音割れは録音のせいか或いは盤質のせい? しかしながら演奏は、Stereo盤と比較しても決して遜色ないどころか、全体に漲る強い緊張感と意志の強さでは上を行くのではないでしょうか。私にはVOX時代のホーレンシュタインは力感はあるもののスケールが若干小振りとの印象がありましたが、この演奏は違います。基本的にはテンポを揺らさない即物的な作りで、例えば第3楽章のトリオなどは素朴な味はなく素っ気ないほどなのですけれど、一貫してテンションが高く、極めてスケールが大きい。テンポは決して速くありません。第2楽章は特に遅めのテンポをとっていて一種異様な緊張感を漂わせています。オーケストラの鳴りも素晴らしく、特に強烈なティンパニはやり過ぎかと思うほどの迫力(本当に凄い)。ギリギリまで音楽を追い込みながらも一貫した主張を持った全体の統一感は感動的です。かつてその元でアシスタントをつとめたこともあるフルトヴェングラーの演奏とは外形こそ違いますけれど感動は同質のものであるように思います。この演奏を日の目の見ないところへ置いておくのはもったいないですね。是非良い音でCD化してもらいたいものです。 左のLP(PL8070)は、1953年の初出の物で、ジャケット裏にNABカーブでイコライズされているとの表記があります。RIAAに統一される50年代中頃以前はレコードのイコライズは各社毎に微妙に異なっていました。DECCAやColumbiaもそれぞれ独自のイコライズを施していたようで、昔のPhonoイコライザーはこれに対応するため幾通りかのイコライズポジションを備えているものがありました。VOXはRIAAになる前はNABカーブだったようです。
尚、このLPは驚くことに2楽章途中(105小節から)で盤面がかわります。確かに1楽章と2楽章を片面に収めることは時間的に辛い。第9交響曲を1枚に無理に詰め込んだLPでは第3楽章途中で盤をひっくり返さなければならないものもかつてはありましたが、この曲では珍しいでしょう。音質をとるか、楽章を途中で切らないか、はレコード会社にとって難しい問題だったでしょうね。 (追加 2003.5.31) 遂にこの演奏がCD化されました。VOXというレーベルの、それもこの時代の復刻としてはかなり聞きやすい音で蘇っているように思います。 でも、若干気になる点はあります。いくつかの部分で微少ではありますが針音らしき音が聞こえます。そして、第2楽章の半ば、上記LPで盤面が変わる部分での繋ぎの悪さ、第2楽章終了後のトレース・ノイズ等をトータルで考えると、このリマスターはLPからの板起こしかも知れません。 ただ不思議なのは、終楽章頭と無音部分にかなり大きめのレベルでプリエコーが入っていることです。他の楽章ではほとんど聞こえないのにこの部分だけとりわけ大きな音で入っています。実際、上記のLPでは全くと言って良いほどプリエコーは聞こえません。(LP時代から聴かれている方であれば、演奏前のプリエコーはよく経験されたことだろうと思います。言葉通り、後に出てくる音を先取りして小さく聞こえること。これはマスターテープの転写によるもので、アナログ時代ではある程度避けがたいものでした。) 考えられるのは、元テープにはプリエコーがあって、レコード化するときにはカットしたしたが、このリマスターではカットしなかった。プリエコーをカットしていないレコードを音源とした。或いは元の音源は同じでも、レコードでは再生しきれない微少な音までリマスターで蘇ってきた。さて、どうなんでしょうか。 演奏とは関係ないことばかりでした。 (2) ホーレンシュタイン2度目の録音。ホーレンシュタインのVox録音の中で南西ドイツRso.とのものは、Brahmsの2曲の交響曲やStravinskyがあって、どれも尋常ならざる覇気を持った演奏なのですが、この曲の場合旧録音と比べると幾分大人しく聞こえます。これはMonoとStereoの違いもあるのでしょうし、楽器のバランスの違いもあるでしょう。金管はどちらかというと控えめ、ティンパニも控えめのバランスですから、強奏での迫力は後退しているように思えます(リマスターのCDは楽器の分離など随分クリアになっています。ただし低域を若干ブーストしているのではないでしょうか)。勿論この演奏も晩年のホーレンシュタインとは違ってインテンポで進む非ロマン的なスタイルを持っているのですが、旧録音に比べてみると全体にオーソドックスにまとまっているような印象を受けます。初めの2つの楽章は速めのテンポとなっており、旧盤で見られるような熱気と思い入れの強い遅いテンポがきわどいところでバランスしている演奏とは違っているようです。僅か数年での違いにしては随分大きい気がします。 終楽章は意外に速くありません。冒頭から第一主題の部分は音量も押さえ気味で、余力を貯めている感じ。これは旧盤と同様の演奏スタイルですけれど、この盤の方が徹底しています。でも、やや緊張感が緩くなっているでしょうか。個人的には覇気がある旧盤の方が好みです。 なお、手持ちのLPでは第2楽章の終わり近く急に音がMonoのような状態になるところがありますけれど、CDでは正常。
|
|||||||||||||||||||||||||||||||
(2) Vox legends CD8X 3602(7807) Vox STPL 510.700(米LP) |